薄々気づいていた、「上級国民」が日本を支配する現実。もはや止まらない分断化の原因は?

社会

2019/9/10

『上級国民/下級国民』(橘玲/小学館)

 2019年4月、東京・池袋で87歳の男性が暴走運転で死亡事故を起こした。この事故の報道に何かひっかかるものを感じた人は多いだろう。罪のない母子を死亡させたのに男性が逮捕されないのはなぜなのか。特にネットでは「元高級官僚という“上級国民”だから特別扱いされているのでは」といった憶測が飛び交い、「日本は一部の上級国民に支配され、下級国民は搾取されている」というような恨み節が聞かれるようになった。

 そもそも「上級」「下級」とは何を指しているのだろうか。『上級国民/下級国民』(橘玲/小学館)は、現代社会のデータをひもときながら、分断と格差が広がる日本のこれまでとこれからをクリアに見通す1冊だ。

■守られてきた団塊の世代と見捨てられた若い世代

 日本において「上級/下級」のように対比されやすいもののひとつが、雇用における「正規/非正規」だろう。一般的には、平成初期のバブル崩壊を境に企業がリストラを行いはじめ、そこに小泉政権の改革に影響を受けた雇用破壊で正社員が減り、非正規雇用が増えてきたとされている。

 この推移ははたして事実なのだろうか。本書で示されている日本の労働市場のデータによると、1992(平成4)年から2007(平成19)年にかけて、非正規雇用の比率は全体の5%→12%と7ポイント上がっているのに対して、正社員の比率は49%→46%と、3ポイントの下げ幅にとどまっている。正社員よりも減っているのは、実は自営業で、11%→7%と4ポイント下がっている。

 また、増えている「非正規」の多くは20代男性だという。社会の変化で自営業が減っていく中では、これまでのように親の稼業を継ぐこともままならない。景気が悪化していく一方で、それまでの「正社員」、とりわけ団塊の世代と呼ばれる中高年の雇用を守るために、若者の雇用が打撃を受け非正規化が進んだ、というのが著者の見立てである。不景気のしわ寄せが、未来を担うはずの若者に来てしまったのだ。

■分断化は止まらない。その原因は――

 本書は、このような分断や格差の広がりは、日本だけでなく、欧米など海外でも進んでいると説く。雇用形態や人種・宗教問題、さらに企業文化などの背景の違いはありながら、なぜ同じように分断が進んでいるのだろうか。

 進んできた「能力主義」や、テクノロジーの進化によってヒト、モノ、カネが自由に行き来できるようになった「グローバル化」、そして同じくテクノロジーの進化で手に入れた豊かさからくる「知識社会」において、「人びとは“知能の差”で分断される」というのが著者の見解だ。

 分断と格差が広がっていく中で、私たちはどのように生き抜いていけばよいのだろうか。本書ではそのヒントも述べられている。たとえば、専門知識を身につけることで知識社会に最適化した人材になるということや、ツイッターやインスタグラムなどのSNSでたくさんのフォロワーを集め、その「評判資本」をマネタイズしていくというアイデアだ。

 厳しい現実を目の前に突き付けられる一方で、本書から得るヒントには未来に向けた一筋の希望も見出せる。ぜひ「自分の」未来を描くきっかけとして、本書を開いてみてはいかがだろうか。

文=水野さちえ