吐き気を催すほどのグロ展開…なのにページをめくってしまう。鬼才・外薗昌也による残酷譚『鬼畜島』

マンガ

公開日:2019/9/13

『鬼畜島』(外薗昌也/LINEコミックス)

 マンガを読んでいると、時折、「この作者の思考回路はどうなっているんだろう?」「世界がどう見えているんだろう?」と思わされる作品に出会うことがある。もちろん、これは褒め言葉であり、自分の想像の範疇を超えた作品に出会えるのは、とても幸せなことだ。そして、マンガ家・外薗昌也さんは、そんな作品を量産し続ける稀有な存在である。

 外薗さんはこれまでに『エマージング』『インソムニア』「異能怪談シリーズ」『殺戮モルフ』『パンプキンナイト』など、数々のホラー、サスペンスマンガを手掛けてきた。人が血を吐き、臓物をぶちまけ、無残な死を迎える…。その作風は読み手を震え上がらせると同時に、「どうしてこんなものが生み出せるのだろう」という恐怖の入り混じった感情を呼び起こす。正直に言うと、途中で読むのをやめようと思ったことが何度もある。けれど、どうしてもやめられないのだ。そのように中毒性の高い外薗作品のなかでも、『鬼畜島』(LINEコミックス)は、他の追随を許さない唯一無二の作品だ。

■自分の夏休みがとんでもない惨劇に変貌する!?

 本作は大学生の高久たちをはじめとする「廃墟研究サークル」が、とある島を訪れるシーンから幕を開ける。彼らにとってそれは、たんなるバカンスの延長線だったのだろう。無人島で、ひと夏の体験ができるかもしれない。そんな淡い期待に胸を高鳴らせていた者もいたかもしれない。けれど、そのひと夏の体験は、想像とは180度異なる展開を迎える。

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 島で彼らを待っていたのは、殺人鬼だった。先行して島に上陸した先輩の頭がかち割られ、血しぶきが飛び散る。それをクルーザーから見ていた高久たち。目の前で起きている惨劇を受け入れられない彼らは、先輩を助けるべく、急いで島に上陸するが、時既に遅し。そして、慌てて引き返そうとするも、なんとクルーザーは沈んでしまう…。

 謎の殺人鬼が潜む島から、逃げる術を失ってしまった。この事実がいかに絶望的なものなのかは想像に難くない。しかし、悪夢はまだはじまったばかりだった。島に潜む殺人鬼はたったひとりではなく、次々とその姿を現すのだ。

 どうにもならない状況を脱するため、凡人だと思われていた主人公がまるでヒーローのような力を宿す――これはマンガにおける王道の展開だろう。読み手はそれに期待し、反逆の姿勢を応援する。けれど、本作ではそんな甘い展開も許されない。高久たちはいつまでも無力なままであり、圧倒的な負の力を前にして、為すすべもないのだ。そう、まさに絶望――。本作を形容するにあたって、これほどまでにぴったりな言葉が他にあるだろうか。

 物語が進むにつれて、島の全容も少しずつ明らかになっていく。そこは、ヤクザが人を捨てる島であること。そして謎の宗教がはびこっていること…。もちろん、それらが明らかになったからといって、高久たちに打開策が見つかるわけではない。むしろ、その都度、目の前が真っ暗になるように絶望が深まるだけなのである。

■「純粋無垢」な殺人鬼たちから逃れることはできるのか

 なによりも恐ろしいのは、島にいる殺人鬼たちには「躊躇」がないことだ。彼らは人を殺すことに、なんの迷いもない。振りかざした凶器を、まっすぐに振り下ろすことができる。その姿はまるで、殺戮衝動にどこまでも“ピュア”と言えるかもしれない。そして、純粋無垢な狂気こそが、最大の恐怖なのだ。

 どのジャンルにも言えることだが、物語にはある程度の型が存在する。それを知っていると、ストーリーの先が読めてしまうこともしばしば。しかし、本作にはそれが通用しない。1ページ先の展開が、まったく予想できないのだ。だからこそ、おもしろくもあり、もう読みたくない…とも思わされる。

販売部数250万部*1突破の衝撃作!2019年9月13日に発売となる『鬼畜島』4巻では、LINEコミックスだけの特典として単行本未収録作「あやかしがたり」第二話が収録されており、さらに5巻・6巻も同日に発売される。
*1:2019年5月時点(紙と電子の合算推定数)
 
また、本作品は電子コミックサービス「LINEマンガ」にて毎週月曜日に連載中で、“無料で23時間ごとに1話ずつ”読める「毎日無料」タブにて配信している。
さらに今なら、待たずに10話までイッキ読みができる無料公開キャンペーンも実施中だ(2019年9月27日まで)。

■作品詳細: https://lin.ee/kxrHDc/pnjo/davinci
©︎ Masaya Hokazono / LINE

 時折、吐き気を催すような過激な描写も見られる本作。この残酷な物語は、どのような決着を迎えるのか。ホラーマンガ界の鬼才が生み出した渾身の1作の最終回を読むまで、この心臓がもつのか。それだけが心配である。

文=五十嵐大