本の力で世界を繋ぐ! 目指すは中央図書館の司書! 現実世界の本好きを唸らせる名言連発のビブリオファンタジー

マンガ

更新日:2019/9/15

 発行累計25万部を突破! 『図書館の大魔術師』(泉光/講談社)は主人公の少年が司書に導かれ、本の都を目指す物語だ。

 美麗な作画と緻密な世界観が魅力で、描かれるのは主人公シオの成長だ。このヒロイック・ビブリオファンタジーをレビューしていく。

■“自分を変えてくれる主人公”を待つ少年、英雄になる

 かつてニガヨモギの使者という厄災を7人の大魔術師が封印した異世界。アトラトナン大陸が舞台だ。その後に起こった民族同士の領土紛争も終わり、およそ100年経とうとする平和な時代に物語は始まる。

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 主人公はアムンという小さな村に暮らすシオ=フミス。耳長族との混血であるシオは、有形無形の差別を受けていた。彼は大好きな本を読みふけっていた。ただ村の貧民地区に住んでいたこともあり、村の図書館を使わせてもらえないでいる。シオは本好きが憧れるアフツァックの中央図書館に行くことを夢見ていた。

 中央図書館にはアトラトナン全ての民族の書が揃っているといわれている。この中央図書館の司書はカフナと呼ばれ、英知の専門家として世界から尊敬を集めていた。シオはある日、カフナであるセドナ=ブルゥと運命的な出会いをはたす。

『図書館の大魔術師』は王道のヒロイック・ファンタジーで、いってみればシオは世界を救う勇者である。だが主役のはずのシオは“自分を変えてくれる主人公”を待つ脇役だった。

 差別を受け、貧しく、自分の育ての親である姉も助けてあげられない。嫌なことばかりの世界から、主人公が自分をきっと連れ出してくれる。そんな風に考えていた。そんなシオにセドナはこう告げる。

主人公は君だ!己の力で物語を動かし!!世界を変えろ!!!

 シオはそれから7年後、カフナになることを決意し、難関の司書試験を受けにアフツァックへ旅立った。そこには気弱で差別されていた耳長の少年はもういない。成長したシオは自信をもってこういうのだ。

この見た目が気に入っているんだ
主人公が人混みに紛れるわけにはいかないからね

 未来の勇者であり、主人公となったシオの冒険が始まったのだ。

■異世界に描き出されるリアル! 本好きをしびれさせるビブリオファンタジー

 本作の大きな魅力である緻密に構築された異世界は、リアルな社会問題をファンタジーの形で提示、反映している。アトラトナンには性別、民族、貧富の差による差別がある。私たちの生きる現実世界と同じく。そして実際にある本をめぐるさまざまな問題も描かれている。これらはおそらく誰もが理解・共感できるだろう。

本屋は読者のためにギリギリまで値段を下げてる…ッ
だから一冊の売上を取り戻すために何倍も売らなきゃ店が潰れてしまうかもしれないの…ッ

 シオが旅の途中で出会った少女、ミホナのこのセリフは、現実の書店が直面している万引き問題にそのままあてはまる。

この世界は本…つまり書でできている
多くの者が書から過去の意志を学び
時に共感し
時に反発し
ある者は新たな書を作り
ある者は指導者となり人を動かす
仮に字が読めなくても
書の影響から逃れて生きることは決してできない

 書の本質をいい表すこの言葉は、本好きが現実世界の全ての人に伝えたいメッセージではないだろうか。本作は“本好きに刺さる”名ゼリフのオンパレード。本好きなら間違いなくぐっとくるはずだ。

■大いなるプロローグ終了。多くの謎をはらみ“本の英雄譚”本章が始動

 物語が進むにつれ、作品世界の全貌が徐々にみえてきた。だが説明されていない謎や伏線は数多く残されている。

 中でも大きいのは本作の著者クレジット。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のコミカライズで知られる泉光氏が著者である。だがそこにはこのような記載もある。

原作「風のカフナ」 著 ソフィ=シュイム 訳 濱田泰斗

 ネット検索をするとこの原作も、その著者も、訳者もみつからない。おそらく現実には存在しないと思われる。架空の原作と著者にどのような意味がこめられているのか。物語が終わる時、答えは明かされるのだろうか。

 最新3巻は、司書試験がクライマックスを迎え、シオは英雄である大魔術師と出会い、その力の一端を覚醒させる。ここまででプロローグといえるエピソードが終わる。いよいよ本格的にストーリーが動き出したこのタイミングから読むことを、ぜひともおすすめしたい。

 シオが本の力でどう世界を繋いでいくのか、あなたのその目で確かめて欲しい。

文=古林恭