なぜ図書館は地域に愛される存在になる必要があるのか?

社会

2019/10/4

『生きるための図書館』(竹内哲/岩波書店)

 図書館は私たちの憩いの場だ。子どもたちは学校で出された宿題を広げ、ときどき友達とクスクス忍び笑いをしながら好きな本を読む。大人はゆっくり新聞を広げ、館内を練り歩きながら新しい本との出会いを楽しむ。図書館は、ただ本を貸し出す場所じゃない。“日常と本を結びつける体験”を提供する場所ではないか。

『生きるための図書館』(竹内哲/岩波書店)は、60年以上にわたって図書館に携わり、90歳を超えた今も発言を続ける著者が、図書館という場所をひもとき、そこで働く図書館司書という職業の重要性を説き、学校図書や本との出会いがいかに子どもの未来を明るくするか、を解説する。

 図書館の本棚にズラリと並ぶ大量の背表紙たちはいつ見ても壮観だ。あまり意識されてないが、図書館で扱われる本の「選書」は主に図書館司書の仕事。貸出状況に留意し、新聞や雑誌の新刊紹介や書評に目を通し、利用者からの要望を聞いて、書店からの見計らい本(書店が「図書館向きではないか」と考えて届けてくれる本)に気を配るなど、目に見えない努力が表れている。ただ単に本を取り揃えているわけでなく、地域の人々のニーズに合わせて選書されているのだ。

 さらに利用者から「こんな本を探しているんですが…」という相談を受けると、一緒に目当ての本を探し出す仕事もある。このとき受けた相談は個人のプライバシーにあたるので、司書として秘密にしなければならない。私たちの想像を超えて、図書館は市民に寄り添った存在だ。

 しかしなぜ図書館はそれだけ見えない努力を続けるのか。あまり知られていないが、少し前の日本で、子どもたちの読書環境をよりよいものにしたい民間の有志活動があったのだ。その1つである「読書運動」というと分かる人もいるかもしれない。

 本が子どもや親に与える影響力は大きい。朗読をすれば集中力が身につき、本を読む子どもはやがて文章を書くようになる。親子で読書をすると親が子どもの新しい一面を見つける。親子が本から学ぶことで一緒に成熟する機会を得て、やがてお互いが読書仲間になる。

 読書が教育や親子に及ぼす影響は多大だ。だからそれを守るべく、広めるべく尽力した個人や団体がいくつもある。そのために地域の図書館の充実は必須であり、学校の中にある「学校図書」や「学校司書」の存在も大変重要だ。本書はこのあたりの歴史をていねいにひもとき、分かりやすく諭すように説明する。

 また意外ではあるが、被災時には図書館が市民の心に寄り添った事実もある。東日本大震災では、命の危機から脱した後も、これから先の生活が見えずに多くの被災者が不安に襲われた。そんなときある地域では、「お腹がある程度満たされてきたので、今度は心を満たそう」という要望が市民から出た。全国から集まった寄贈本を配布して、被災者が読書に勤しんだのだ。さらに被災した人々が自分ひとりになれる場所を求めて、避難所から図書館へ訪れる生活パターンが被災地で見られたそうだ。このほか図書館は被災した被害の全貌を、市民たちの声や行動を、街が復興する様子を記録する役割を担う。

 図書館は私たちが想像する以上に、地域になくてはならない存在だ。だから図書館の職員たちは地域で愛される施設になるべく見えない努力を続ける。2015年8月、SNSでこんな投稿が話題になった。

「学校が始まるのが死ぬほどつらい子、学校を休んで図書館へいらっしゃい……」

 さらにある医療関係者は、高齢者が前向きに過ごす場所として図書館に注目しているという。これもまた図書館の役割の1つ。誰かの避難場所になり、生きがいになりうる。これだけ多様な目的で活用されている施設は、あまり例を見ないのではないか。

 図書館は、ただ本を貸し出す場所じゃない。子どもからお年寄りまで、すべての人に寄り添う大切な場所だ。それを再確認させてくれるのが本書だ。

文=いのうえゆきひろ