生き残るために、誰かを殺すことができますか? 凶悪犯ばかりの無法地帯から、無実の青年は脱出できるのか

マンガ・アニメ

2019/10/10

『無法島』(森恒二/白泉社)

 自殺未遂常習者たちが送り込まれた孤島を舞台に、生命の重さや生きる意味を問いかけたマンガ『自殺島』(森恒二/白泉社)。サバイバルを通じて主人公たちが生命と向き合っていく姿は感動を呼び、累計発行部数330万を超える大ヒットを記録した。

 そんな森さんの最新作が『無法島』(白泉社)。音の響きが似ていることからもわかる通り、本作は『自殺島』の前日譚に位置づけられたスピンオフである。

 舞台となるのは20××年の日本。政府は増え続ける凶悪犯に対し、試験的な流刑制度を復活させていた。死刑に相当する犯罪者たちを、いわゆる“島流し”にしたのだ。

 彼らが送り込まれるのは、通称“無法島”。この島には法律が関与せず、送り込まれた者たちに人権などは存在しない。たとえ殺し合いが発生したとしても、罰せられることはない。文字通り、無法地帯なのだ。

 そんな過酷な環境に送り込まれたのは、ひとりの青年。しかし、彼は周りの犯罪者たちとは異なり、無実の罪を着せられた人物だった。家族を惨殺され、訳もわからないままに島流しとなってしまう。しかし、自身が置かれた状況を理解する暇もなく、犯罪者たちの横暴に巻き込まれていく。

 食料を独り占めにしようとする者、女性受刑者に乱暴しようとする者。法律が関与しないことで、自身の欲望を爆発させる犯罪者たちは、まさにケダモノだ。主人公はそんな彼らを目の当たりにしつつ、どうにか生き延びる道を模索する。

 ところが、無法地帯において、倫理観に縛られる者はどうしたって弱い。相手を傷つけること、殺してしまうことさえ厭わない者を前に、「人を殺してはいけない」「傷つけてはいけない」という常識に支配される主人公には、成すすべがないのだ。しかし、だからこそ、ぼくら読者は彼に感情移入ができる。そして、この世とは思えない世界に放り込まれてしまった彼の目線を通し、人間の醜さを見つめることになる。

 そんな主人公を救ってくれるのは、本作のヒロインだ。彼女は人を殺すことをなんとも思わない、冷酷な殺人マシーン。心を失ったようにも見えるが、それには過去のある事件が関係していた。それを知ると、彼女の生き方を咎めることはできなくなってしまうだろう。しかし、それでも主人公は言う。「殺してはいけない」と――。

 生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込まれたとき、どこまで綺麗事が通じるだろうか。殺されるくらいならば、殺してしまっても良いのではないか。それは正当防衛だろう。でも、やはりこの手を血に染めるなんてできない。本作を読んでいると、さまざまな考えが頭をよぎる。そして、本作に込められた強烈なメッセージを前に、読者は丸裸にされてしまうのだ。

 ぼくらは普段、生きることについて真剣に考える機会が少ない。安全な日本に生まれ、穏やかな日々のなかで、「これが当たり前なのだ」と思い込んで生きている。

 けれど、本作を読んでいると、あらためて生命について考えさせられる。極限状態に追い込まれた主人公を通して、自分が優先していることを突きつけられるのだ。

 もしも、生き延びるために誰かを殺さなければならないとなった場合、あなたは一歩踏み出せるだろうか? 森さんが本作に込めた想いを感じ取りながら、ぜひこの過酷な世界を垣間見てもらいたい。

文=五十嵐 大