緊張感…リアルすぎねえ? 狂気じみたクマ撃ちの女の物語がすごい!

マンガ

公開日:2019/10/13

『クマ撃ちの女』(安島薮太/新潮社)

 狙うは日本最強生物エゾヒグマ! 命がけの狩猟に挑む“狩りガール”を描くのが『クマ撃ちの女』(安島薮太/新潮社)だ。

 主人公はクマを撃つことに執着するアラサー女子、小坂チアキ。北の大地で愛銃ウィンチェスターライフルを携えて今日も山へ向かう。

 撃って、獲って、食う! チアキの目的とは…? 今“きている”狩猟マンガを本作をレビューしていく。

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■撃って獲って食う! 命がけでクマを狙うミステリアスな女とは?

 主人公はチアキだが、本作は編集者からフリーライターになったばかりの若者、伊藤カズキの眼から描かれている。

 伊藤は狩猟や狩りガールが話題のキーワード、つまり“ウケるネタ”であると感じた。そこで自分の祖父と同じ猟友会のチアキを紹介してもらい、同行取材を申し込んでいた。

 そのチアキは“日本最強の生物”と言われるエゾヒグマをひとりで狩る若い女の子、と伊藤が聞いていたイメージとは違っていた。彼女は伊藤と出会ったその時まで、死にかけの1頭にとどめをさしただけ。クマの狩猟のキャリアは浅い、31歳のアラサー女子だった。

 ただクマをひとりで撃っているのは確かで、チアキにはエゾヒグマへの狂気じみた執着があった。最初に待ち合わせた日も、「獲物の姿を見た」と、伊藤との約束をすっぽかし、とりつかれたように山に入っていたほどだ。

私はヒグマを撃ちたくて撃ちたくてたまらないんです
伊藤さんが死んでもいいからクマが撃ちたい

 獲物の肉運び要員として同行取材を許可してくれた後、伊藤はある日チアキにこう言われる。またチアキのなじみの射撃場のスタッフからも忠告される。

軽い気持ちならやめた方がいいよ
死ぬよ!

アノ娘はいつ死んでもおかしくないよ

 伊藤はチアキがときおりみせるただならぬ雰囲気に不安を覚えつつも、彼女の不思議な魅力に惹かれていくようだ。さらに恐怖を超えたスリルのような危険な感覚にもハマっていく。

■リアリティが魅力! 手に汗握る狩猟劇…とグルメ!

 本作のわかりやすい魅力は、謎めいた主人公チアキと、エゾヒグマとのバトルだ。そしてその魅力を支えているのが、綿密な取材を行ったというリアリティである。

 1話の狩猟時の描写。このリアルさにまず引き込まれる。10mない距離でエゾヒグマと対峙したチアキ。音が鳴れば気づかれるから銃弾の装填は1発のみ。もし撃ち損じれば「ヒトとは比べ物にならない力によって殺される」状況。今回は撃てない…と判断した瞬間から、チアキがどうその場を安全に離れるかの行動が詳細に描かれる。

 狩猟者としてのチアキの高ぶる感情、死にたくないという恐怖が伝わってくる。本稿のライターは狩猟経験などないものの、この静かなる戦いの(描写の)リアルさに、手に汗を握った。

 他にも、狩猟の主役である銃についてもしっかりと描いている。猟銃専門店の豊和精機製作所が監修しており、銃そのもの以外にも、スコープの調整についてもページをたっぷりと割いている。チアキの愛銃ウィンチェスターM70(Pre’64)はかなりマニアックなセレクトのようだ。ガンマニアも楽しめる作品なのだ。

 そして狩猟マンガとしては外せないのがグルメ。つまりジビエだ。一応説明すると、狩猟で仕留めた天然・野生の鳥獣の肉のこと。マンガ以外でも、専門のレストランなども近年増えてきている流行のグルメである。本作はシカ、やがてエゾヒグマなどを手際よく解体するコツを語り、実際にさばく様子を丁寧に描いている。

 シカの肉を山で採ったキノコと合わせ、ビールを開け、ジンギスカン鍋でジビエ焼肉を楽しむ。このエピソードは、読んでいるだけで思わずよだれが出てしまった(笑)! 『クマ撃ちの女』で描かれる、お店ではそうそう食べられない超鮮度のいい肉は、食べたくなる人も多いのでは?

 ふたりはそれぞれの思いを胸に、北の大地で命がけの狩猟劇を繰り広げる。第1巻のラストでは、チアキが偶発的にクマを撃たざるを得ない状況に追い込まれる。クマ撃ちの女の物語は、テンションがさらに上がりヒートアップしていくのだ。徐々に明らかになっていく、チアキがクマを撃つ目的にもぜひ注目して欲しい。

 狩猟、銃、ジビエ、これらに興味のある方なら間違いなく楽しめる作品だ。

文=古林恭