「犬神」に支配される閉鎖的な村でいったい何が…! ある夏をきっかけに少女のすべてが壊れていく

マンガ

公開日:2019/11/23

『犬の哭く村』(黒川こまち/白泉社)

「少女マンガ」に対する思い込みの浅はかさをつきつけられた『犬の哭く村』(黒川こまち/白泉社)。ここ最近読んだなかでホラー度が格段に上。表紙に描かれた犬仮面の表情が邪悪というか不敵な表情を浮かべている時点で気づくべきであった。

 冒頭の見開きでまず、神社の社の前で建設会社の社員が血だらけになって死んでいるのが発見され「犬神の祟りだ!」という叫び声から始まり、「犬神」の存在を心底信じている閉ざされた村を舞台に、いきなり事件が展開していく。

 主人公の月子は、幼いころに両親を亡くして、犬神を封じる神社の宮司に引き取られている。幼なじみの少年・スギの実家は旅館で、神社を壊そうとしているために、村中から敵意を向けられ、次に死ぬのはお前だという脅迫まで受けている。それでも、やはり幼なじみの健太(村長の息子)、町一番の美女・忍(診療所の娘)とともに支えあう日々だが、その絆を確かめあうように4人で夏祭りに行くなんてもう、事件の匂いしかしない。

advertisement

 案の定、早々にかなりの悲劇が起きるどころか、「犬神をつくりだしたのは犬神を操る家系の娘である月子」という“爆弾”まで放り込まれる始末。かなり怒涛の展開だが、絵柄のかわいらしさ、そして躍動感ある祭りの風景、モブキャラでさえそうとは思えないリアリティをもって描かれる村人たちなど、細部まで描き込まれた世界観と構成の巧みさで一気に引き込まれてしまった。

 特筆すべきは「人間がいちばん怖い」を地で行く村人たちの描写。最近、閉鎖的な村で起きた放火事件を扱ったノンフィクション『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(高橋ユキ/晶文社)が話題になったが、村のためになると思えば、自分たちを正義と信じれば、容赦なく他者を害せる集団の狂気は、決して絵空事ではなく、慄くしかない。さらにいえば、彼らは本当に正気を失ったわけではなく、怒り、不安、妬み、悲しみといったあらゆるマイナス感情に触発されて、ふだん理性でおしとどめているものが暴発しているだけ。そして月子のことが大好きな健太でさえ、その愛情ゆえに深い闇へと落ちていく。

 というかマジで健太こえーよ!!!と思っていたら、あとがきで「切ないラブストーリーみたいなものは他の人に任せて、黒川さんは人の業を描くべきです」と言った編集さんのアドバイスによるものとあり、すげえ編集だなと思うと同時に「グッジョブ!」と言いたくなるのも本音である。なぜなら本当の希望とは、業が描き抜かれた果てにあると思うからだ。本当は犬神なのか? 村で続く殺人の犯人なのか? と疑わしき犬の仮面をかぶった代理宮司・玲一とのあいだにどうやら“切ないラブストーリー”は展開しそうな気配だが(健太とのそれも切ないといえば切ない)、その切なさもまた、村を覆う感情の渦と、月子の失われた記憶の謎があってこそ成立するはず。著者の黒川こまちさんには、今後もとことん業を描き切っていただきたいし、それがあるから、この作品は怖くてもエグくても面白いのである。

文=立花もも

試し読みはこちら