覆面レスラー・カシンが再び暴露本! プロレス界の裏も見えるインタビュー本が生々しい

エンタメ

2019/12/5

『50歳で初めてハローワークに行った僕がニューヨーク証券取引所に上場する企業でゲストコーチを務めるまで』(ケンドー・カシン/徳間書店)

 日本を代表する覆面プロレスラー、ケンドー・カシン(石澤常光)のファンは多い。同選手は、早稲田大学在学中のアマチュア時代から、レスリング部で全日本学生選手権3連覇、全日本選手権優勝という輝かしい実績を持つ実力派。プロレスラーとなってからも老舗である新日本プロレスと全日本プロレスを渡り、総合格闘技ブームの時にはPRIDEやK-1などで活躍した。本格派スターにして独特なキャラクター。予測不可能なカシン節にずば抜けた行動力は、時代を通して愛されてきた。
 
 そんなカシンの自伝書『フツーのプロレスラーだった僕がKOで大学非常勤講師になるまで』が好評を博し、続編となる『50歳で初めてハローワークに行った僕がニューヨーク証券取引所に上場する企業でゲストコーチを務めるまで』(ケンドー・カシン/徳間書店)が上梓された。

 タイトルにある“企業”とは、アメリカにある世界最大のプロレス団体、WWEのこと。世界中から集まった若手を育てる登竜門であるWWEのパフォーマンスセンターで、日本人がゲストコーチに招かれたのは初めてという快挙だ。ちなみに、前書にある「KO」とは慶應義塾大学のこと。再びタイトルからパンチが効いたカシン本だが、今回もいかにも“彼らしい”予測不可能で、謎解きのような赤裸々な裏話が多くちりばめられている。

■ファンを魅了する理由? どんなプレゼントも「当たり前」と着る

 彼はレスリング界での成功者であり、エリートに変わりはない。今も名門大学や世界最大のプロレス団体から指導者としてのオファーが来るのだから。にもかかわらず、これまで行く先々で物議を醸す行動や言動をするなど、その生き様は問題児でアウトローのよう。前作では、「カシンが、真面目で誠実で、悩める良い人というのが伝わってくる」と多くの高評価を得たが、今作では再びあまのじゃくな言動でファンを翻弄する。ママ友の襲来からテロリストはびこる国での遠征話までを並列で語るなど、仰け反るようなノリで衝撃のエピソードが飛び出す。それこそが、彼と彼の本の魅力である。

 いつだって独自の皮肉というスパイスが抜群に効いているのだ。読めばきっとクセになるだろう。

 それを良く表すエピソードがある。アマレスで大学生チャンピオンだったカシンには、当時から試合の応援に来ていたファンがいたという。だが、ある時、カシンはまさかの敗戦。そこで、そのファンが「なんで負けたんだ!」と言うので、「うるせー!」と返したという…。

 それ以来、そのファンを見かけなくなったのだが、しばらくしてカシンがプロになってから再び応援してくれる姿を見かけるようになったそうだ。カシンは振り返る。「ジャージとかプレゼントしていただきました。アディダスのように見えて『アディオス』とかになってるジャージです」。そこで、インタビュアーの原彬さんが「もらったものは着るんですか?」と返すと、「当たり前じゃないか! ファンの方が心を込めて贈ってくれた物を粗末にできるわけがないだろう」と怒るのだ。

 笑えるような笑えないような前振りから、皮肉な冗談を効かせつつ、“真面目で誠実”な人柄があらわれている。多面的で、プラスもマイナスも表裏一体の人間らしさとユニークネスに引き込まれる。

■謎は後で答え合わせ? 『カメ止め』のような即興インタビュー

 なお、本書の内容を理解するにはさまざまな背景を知らなければいけないというハードルがあるかもしれないが、そんな時もまずは立ち止まることなく、読み進めることを勧めたい。そのリアルな物言いをひたすらに頭に流し込めば、目の前でカシンが話しているような錯覚が得られるはずだ。

 同書の構成は、インタビュー形式。あまりに独特すぎるカシン節を収めるには、こうした語り口がベストなのだろう。カシン節が炸裂した言葉が、これでもかというほど、スパイスてんこ盛りで(ありのままに)綴られ、それがジワジワと響く。

 疾走感もそのまま。まるで、映画『カメラを止めるな!』のように、話が逸脱しようと一瞬不可解でも止まらない。気になったところの“答え合わせ”は、きっと後で調べればいいのだ。そうして言葉の背景を理解することができれば、本書は二度おもしろく読めるに違いない。

文=松山ようこ