飼い猫が人生の推し。Twitterで話題の爆笑コミックエッセイ!

マンガ

公開日:2020/1/5

『猫パン日記 幸せを運ぶねこと厄よびパンダ』(ぬら次郎/KADOKAWA)

 オタクの推しへの愛は、計り知れない。推しとなる対象がマンガのキャラクターであってもアイドルであっても、生粋のオタクは惜しみなく愛と金を注ぎ込む。そしてそのおびただしい熱量は、彼らの生きていく糧になっている。

『猫パン日記 幸せを運ぶねこと厄よびパンダ』の著者、ぬら次郎氏は、勝手ながらに推測すると、飼い猫が人生の「推し」なのだろう。

『猫パン日記 幸せを運ぶねこと厄よびパンダ』(ぬら次郎/KADOKAWA)は、独特のタッチで描かれる飼い主「ぬら次郎」と飼い猫の日記マンガで、Twitterで話題となり、今回全ページを再度描き直してフルカラーで発売された。

advertisement

 飼い猫は、ママのような優しさあふれる「暦」(こよみ)、ツンデレな「薫」(かおる)と、そして新しく飼われたクロネコの「蛍」(ほたる)の3匹。個性的な3匹が、本能のおもむくままに、ときに並々ならぬ知性を発揮しながら、ぬら次郎氏の日常を引っかきまわす。

 例えば、ぬら次郎氏がダンボールハウスをせっかく自作しても猫たちは見向きもしないし、8万円もする自動猫トイレを買ってもなかなか使ってくれない。ケージに入れても、なんと勝手に鍵を開けて出てきてしまう。

 読み始めた当初は、猫に振り回される人の日常をおもしろおかしく描いている作品なのねと思っていた。

 実際、猫たちの奔放な愛らしさと、ぬら次郎氏のユーモラスな視点がかけ合わさって、ページをめくるたび、つい「グフッ」と笑ってしまう。

 たとえば、飼っている魚を有名なマンガの登場人物の名前にしていたり、猫の能力の高さをゲームのように「素早さS+」とランクづけしたりするなど、ぬら次郎氏ならではのセンスが光る表現は、中毒性のある笑いに変化している。

 しかし読み進めていくと、ときに猫との至福の瞬間があざやかに描かれおり、ハッとする場面が出てくるのだ。

 こんなささやかで幸せなひとときを、私たち人間はいつも心のどこかで望んでいるのではないだろうか。パンダと猫が並んで日向ぼっこしているシュールな絵にもかかわらず、思わず涙してしまった。このマンガには、ぬら次郎氏の猫たちへの深い愛が、笑いと同様に随所に散りばめられているのだ。

 そして、そのことが端的に表現されているページがこちらだ。

 この猫への想いを表現するなら、やはり「推し」なのだ。それぐらい大切で、情熱を注げる存在なのだ。

 この漫画には、人間の容姿をした人間は登場しない。ぬら次郎氏はパンダに、氏の家族や友人もすべてカエルやヤギといった動物として描かれる。ヒトと動物の境が曖昧で、等しく命を持つ存在としてすべての登場人物(猫)が存在し、「そうだ、人間も別にエライわけじゃなくて、ただの動物だったのだ」と当たり前だけれど普段忘れてしまいがちなことを思い出させてくれるのだ。

 人間も猫も、等しく命を持つ動物である。ひとつ屋根の下でともに暮らすぬら次郎氏と猫たちの間には、もちろんままならないことも多いけれど、甘美な時間が確かに存在する。人生の推しである猫たちと過ごす毎日、ありあまるほどの愛が、オタクな筆者が生きる理由として輝きを放つ。

 このマンガの読者の胸を打つ攻撃力は、べらぼうに高いと私は思う。

 笑えて、不覚にも泣ける。描き下ろしも加わった本作は、Twitterで親しんでいるファンも必読の一冊といえるだろう。

文=くりたまき