気まぐれで勝手なのに、不思議と癒やされる……。疲れ切った夜に読みたい、猫たちとの日々を描いた『ねこだまり』

マンガ

公開日:2020/1/18

『ねこだまり』(郷本/芳文社)

 猫というのは、とても不思議な生き物だ。気まぐれで自由気まま、飼い主に従順な犬と比べると、若干飼いづらそうな印象すらある。けれど、多くの人から愛されてやまない。社会に適応して“うまくやっていく”ことを求められがちなぼくら人間は、自由に生きる猫に多少の羨望を抱いているのかもしれない。

 そんな猫との暮らしを丁寧に描いた作品がある。『ねこだまり』(郷本/芳文社)だ。

 本作の主人公はOLの〈誰か〉さん。彼女は通勤電車のなかで船をこぐほど疲れ切った毎日を送っている。そんな彼女が暮らすのは、母親と住んでいた一軒家だ。しかし、いまはもう彼女の帰宅を待つ人はいない。とはいえ、彼女は孤独なわけでもない。それはなぜか。その一軒家には3匹の猫たちが一緒に住んでいるからだ。

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 第1巻、第2巻では、〈誰か〉さんと暮らす3匹の猫たちの個性的な生態が描かれている。新入りの〈チビ〉はいつも賑やか。捕まえたトカゲを嬉しそうに見せびらかし、〈誰か〉さんの食事の邪魔をしてばかり。

 〈ぶーちゃん〉はその名の通り巨体の猫。のっしのっしと歩く姿には貫禄があり、〈誰か〉さんに、「あの巨体でダイエットしなくていいとはうらやましいな」と思わせるほどだ。

 3匹のなかで最もクールなのは、〈がぶちゃん〉。すぐに噛み付くという理由でその名が付けられ、一向に懐く気配を見せない。いかにも猫らしい猫だ。

 そして、このたび発売された第3巻では、〈誰か〉さんと猫たちとの関係がさらに深掘りされている。

 たとえば、〈誰か〉さんが会社の同僚と「猫カフェ」に遊びに行ったときのエピソード。決して悪いことをしているわけではないのに、どこか「浮気しているみたいだな」と罪悪感を覚える〈誰か〉さん。そんな彼女の気持ちを察したのか、あるいは他の猫のにおいを嗅ぎつけたのか、3匹は〈誰か〉さんに冷たい視線をぶつける。

 また、第3巻では、「女性がひとりで生きていくこと」「家庭を持たないこと」についての言及もされている。もちろん、そのことに対して明確な解はなされない。〈誰か〉さんは、ただ猫たちとの日々を謳歌しているだけだ。しかし、その姿が幸せそうに描かれていることで、「たとえ結婚などしていなくとも、愛おしく思える存在がいるだけで人は幸せに生きることができるのだ」というメッセージを受け取ることができる。

「ひとり暮らしの女性は、ペットを飼うと婚期が遅れる」。これはしばしば耳にする言葉だ。本作はそんな社会的な圧力からの解放も描いている作品だと言えるだろう。

 ただし、そこまで難しく考えて読む必要はないとも思う。本作で徹底的に描かれている、〈誰か〉さんと3匹たちの幸福な日常を追いかけるだけで、ただただほっこりとした気持ちに浸ることができる。そして、そんな読書体験が癒やしになるのだ。

 仕事で疲れ切った夜、あるいはふと孤独を感じた瞬間。そんなときこそ、本作のページをそっと開いてみてほしい。そこには、ありのままのぼくらを受け入れてくれる3匹の猫たちがいるから。

文=五十嵐 大