10年前に死んだ妻が、10歳の小学生になって戻ってきた……! 失った最愛の人との再会を描く、家族の物語『妻、小学生になる。』

マンガ

公開日:2020/2/14

『妻、小学生になる。』(村田椰融/芳文社)

 愛する人を亡くした経験がある人ならば、誰もが一度は願ったことがあるだろう。もう一度会いたい、と。伝えきれなかった想い、守れなかった約束……。それらはすべて「後悔」へと形を変え、残された者を責め続ける。そのたび、もう一度会えたら、悔いのない時間を過ごせるのにと願うのだ。それが決して叶うものではないと知っていても、なお。

 ただし、もしも本当にその願いが叶ったとしたら、人はどうするのだろうか。

『妻、小学生になる。』(村田椰融/芳文社)は、まさにそんな問いかけをテーマにした家族の物語だ。

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 主人公は10年前に妻・貴恵を亡くしたサラリーマン・新島圭介。愛妻家だった圭介は、いまだに失意のなかにいた。暗い顔つきで家路につき、娘・麻衣とふたりでコンビニ弁当を食べる。その食卓には重苦しい空気が漂っており、まるで部屋中が喪失感で埋め尽くされているかのようだ。

 ところが、そんな空気を打ち破るように、ひとりの女子小学生が訪ねてくる。

 ちょっと生意気そうな目つきで圭介に「ただいま」と告げる彼女。一体誰……? そう思った瞬間、彼女は口を開く。

“私は新島貴恵! あんたの妻! 麻衣の母親!”

 そう、圭介と麻衣の前に突然現れたのは、生まれ変わり「10歳の小学生」となった亡き妻だったのだ。

 にわかには信じ難い事態。けれど、圭介も麻衣も彼女を受け入れる。そして再び、新島家の時計の針は動き始める。愛妻弁当を食べたり、家族3人で水族館へ遊びに行ったり。傍目には、おじさんとその娘、そして孫ほどの年齢の女子が側にいるだけ。でも、彼らは確かに家族。会いたくても会えない、苦しい失意を払拭するかのように、圭介は3人で過ごす日常を謳歌する。それはまるで、大きな傷口を少しずつ埋めていく行為のようだ。

 ただし、そこには問題もある。それは貴恵が生まれ変わりゆえに、現世では別の家族を持っているということ。現世での彼女の立ち位置は、母子家庭のもとに生まれた少女・万理華なのだ。圭介や麻衣の前では前世の貴恵として振る舞うことが許されるが、普段は万理華として、小学生らしく生きなければいけない。

 本当は家族なのに、家族として一緒にいられない。その葛藤や苦しみは、想像以上だろう。

 さらに、単行本第4巻では、圭介たちを襲う悲劇の影がちらつく。

 それは万理華の母親の再婚だ。いや、それだけならばまだマシ。どうやら万理華の母親は新しい男と結婚し、遠い街へ引っ越そうと考えているという。母親と再婚相手らしき男との会話から、圭介や麻衣と離れ離れになる危機を察する万理華。そうなったとき、圭介を襲うのは、「二度目の別れ」だろう。どうして運命はこうも残酷なのか。第4巻のラストシーンを読んだとき、現実の理不尽さに胸が潰れる思いがした。

 10年前に亡くした妻が戻ってきたことで、前向きに生きられるようになった圭介。同様に、母親と再会できて、明るさを取り戻した麻衣。彼らの姿を見ていると、愛する人を失う痛みを嫌というほど思い知らされる。そして、その存在の尊さも。

 はたして、彼らが行き着く先に光はあるのか。ちょっと不思議でいびつな家族の物語を、ぜひその目で確かめてもらいたい。

文=五十嵐 大