理解されにくい生きづらさを抱える“かんもく”。当事者がリアルを綴る『かんもくの声』

暮らし

2020/4/4

『かんもくの声』(入江紗代/学苑社)

 あなたは「かんもく」を知っているだろうか。

“家では普通に話せるが、園や学校では話せなくなる”といった特性がある「場面緘黙症」は、発達障害などと並んで診断基準にもあげられている症状だ。話したくても、特定の場面で話せなくなってしまったり、行動を起こせなくなってしまったりすることがある。

 そんな当事者たちにも当然、思いや感情がある。『かんもくの声』(入江紗代/学苑社)は、彼ら彼女らの内面に広がる世界を想像させてくれる一冊だ。

 かんもくの当事者は、往々にして「おとなしくて良い子」と思われ、生きづらさが伝わりづらいのかもしれない。しかし、実際にはかんもくが多くの困難をもたらすことを、著者・入江紗代さんのエピソードや考えを読むとイメージすることができる。

 幼稚園のとき、カラフルな紐を三つ編みにする遊びが流行っていたが、入江さんは編み目がゆるゆるになってしまい、うまく作れなかった。周囲に「おしえて」と言うことができなかったからだ。誰かに見られるのが怖くて、かばんにしまった。当時は、入江さんも家族もかんもくのことを知るよしもない。

 小学生時代には、初めて“少し大人っぽい美容院”に行った。本や漫画を読むこと、おしゃべりすることを求められる空気に、入江さんの体は固まってしまった。場面緘黙がゆえの複雑な思いが渦巻いていた。“髪を切りに来ただけで、なぜこんなに気持ちをかき乱されなければいけないのだ”と怒りすら湧いた。

 小さな頃から生きづらさを抱えていた入江さんは、27歳でその正体に出会うこととなった。何気なく目にしたサイトに「場面緘黙」を見つけたことをきっかけに、自らの人生を振り返り、理解していく。

 入江さんの日常には、数えきれないほどの困難があった。その苦しさは、生活の至るところに染みわたっていた。

“あいさつ、返事、世間話。尋ねる。質問する。電話を受ける・電話をかける。説明する。受け答えする。確認する。どうぞ。すみません。失礼します。ありがとうございます。飲食店などでの注文。美容院、病院、役所でのやり取り。自己紹介。名前を呼ぶこと。場面緘黙でない人にとっては、ほんの些細なことかもしれない。でも、私にとってはどれも大変なこと”

 幼少期からの体験のみならず、大学生で体験した緊急入院や依存のような状態まで、包み隠さずに描かれる。そしてかんもくと出会い、入江さんの現在はいかに。切実な体験と豊かな表現力が織りなす渾身の一冊を、ぜひ。

文=えんどーこーた

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