ふたりの恋人の間で揺れる彼女に与えられた期限は「1年間」。迷走だらけの大人たちの恋愛を描いた群像劇

マンガ

公開日:2020/4/12

『A子さんの恋人』(近藤聡乃/KADOKAWA)

 A子さんは、阿佐ヶ谷に住んでいる。職業は漫画家で、ニューヨークの留学から帰ってきたばかりだ。A子さんには、U子さんとK子さんという美大時代からの友人が2人いる。3人とも少し性格が悪い。

 そして、A子さんには恋人が2人いる。

 ひとりはA太郎。美大の同期で、在学中から長く付き合っている。イケメンで人の懐に入るのが上手な人気者。A子さんのタイプではない。彼とは腐れ縁になっていて、留学を機に別れようとしたが、うまく丸め込まれたまま、まだ関係が続いている。

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 もうひとりはアメリカの恋人A君だ。翻訳の仕事をしていて、クールなメガネ男子。決して第一印象はよくないが、いつでも余裕があって、彼女を甘やかすのがうまい。帰国を機に別れようと思ったが、うまく丸め込まれたまま、まだ関係が続いている。

 彼女がA太郎とA君のどちらを選ぶのか、そのために与えられた期限は、日本に滞在予定の「1年間」である。

 優柔不断なA子さんと、彼女の周囲の“ダメな大人たち”の恋愛模様を描いたマンガ『A子さんの恋人』(近藤聡乃/KADOKAWA)は先日発売された第6巻により本格的にクライマックスへと向かっている。

 歳を重ねたからといって、簡単に大人になれるわけではない。登場するキャラクターはみな社会人として仕事をしていて、いい歳なわけだが、彼ら彼女らが思い悩むことは本当に些細なことで、一見子どもじみていたりもする。

 学生時代の片想いを引きずったり、才能がある友人に気後れをしたり、あまりよくない恋愛関係を惰性で続けたり…。

 世間一般的にはダメな大人かもしれないが、これこそがリアルな人間の姿なのでは、とも思う。読んでいると、日常で感じていたモヤモヤを見事に言語化されたような、清々しさを感じることが多々ある。

 ふたりの男に求愛されるA子さんが、現実離れした美人というわけではなく、絶妙に現実にいそうな地味な女性というのもいい。特別目立つわけでもないのに、なぜかいつも異性にモテる人、というのは確かにいるわけだが、A子さんはまさにそういう人だ。そんな彼女を、ハイスペックな男性ふたりがかなり情熱的に求めるのだが、当の本人はいつまでもそこに明確な答えを出すことができない。そして、その理由が、彼女自身にもわかっていない。

 期限はもう間近だ。彼女は決して彼らふたりを天秤にかけたりはしない。どこまでも、自分がどうありたいのか、どうしたいのか、を考え続けている。この関係性がどのような結末を迎えるべきか、自分の心から納得できる答えを見つけるために。

 読んでいると、いつの間にかA太郎やA君と同じように、Aさんの魅力に引き込まれている自分がいる。彼女がどのような決断をくだすのか。最後まで見届けたい。

文=園田もなか