胎児の異常がわかったらあなたは中絶を選びますか? 出生前診断の研究者が考える「命の選択」

出産・子育て

公開日:2020/4/15

『出生前診断の現場から 専門医が考える「命の選択」』(室月淳:著/集英社新書)

 晩婚化に伴って高齢出産が増えている。高齢になるほど胎児の異常や妊娠トラブルが起きやすいとも言われており、妊娠は嬉しい反面、無事に出産できるまで「不安」と思う方も多い。以前からそうした高齢妊婦の間では胎児の異常を調べる「出生前診断」への関心が高かったが、2013年に「新型出生前診断」(NIPT)が始まったことでさらに検査希望者が増加傾向にあるという。

 かつて「出生前診断」の主流だった「羊水検査」には流産リスクがあるのに対し、NIPTは母体の採血だけでダウン症等の染色体異常がわかる。母体と胎児にリスクが少ないのは喜ぶべきことだが、検査は「命の選択」にも繋がりかねないものであり、決して安易に捉えるべきではない。検査を受けるか受けないか、胎児に異常があった場合にどうするのかといった決断はいずれも妊婦とそのパートナーの「自己決定」に任されており、医療関係者も複雑な思いを抱えているのが現状だ。

 だが、いざ自分が「検査をしたい」と切望する妊婦だったとしたらどうだろう。そうしたモヤモヤをいくら突きつけられてもかえって困惑するだけなのかもしれない。知りたいのは「検査を受けるにはどうしたらいいのか」「検査はどんなことをするのか」「問題点は何か」といった具体的なことであり、そんな時には信用の置ける専門家の意見こそが聞きたいもの。このほど登場した『出生前診断の現場から 専門医が考える「命の選択」』(室月 淳:著/集英社)は、その意味でかなり頼りになる一冊だろう。

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 著者は産科医で、出生前診断の現場に長年関わる最先端の研究者でもある。そのため本書は、NIPTでどんなことがわかるのか、どうやったら受けられるのか、検査の後はどうするかなど、NIPTに興味のある人や検査を受けようか悩んでいる人に向けて、まずはわかりやすく解説してくれる。その上で「なぜNIPTを受けようと思うのか?」とその動機や不安にじっくり向き合い、検査の医学的役割や社会的意味、さらには倫理的な問題など、考えうる現状の問題点を現場の迷いを交えながら正直に伝えていく。

 本書のタイトルにもあるように、やはり出生前診断における一番の論点は「命の選択」の問題だ。胎児に異常が見つかった時にやむを得ず「中絶」を選択する妊婦も多いが、中絶手術とは薬品で胎児を殺し出産と同じ流れで人工的に死産させることであり、どんなに言い繕っても「人工妊娠中絶はしょせん『胎児殺し』」に他ならず、妊婦そのものへのダメージも大きいと著者。「結果次第で考える」と多くの妊婦は検査前に答えるというが、もし決断を迫られることになればそのスピードは圧倒的だ。時間切れで納得いかないまま結論を出すことにならないよう、あらかじめ本書のリアルで客観的な事実を知っておくことは大きな手助けになるだろう。

 著者は「結果はどうあれ産む」という思いがあるなら、「出生前診断を受けず『子どもを選ばないことを選ぶ』という選択肢もある」ともメッセージする。不安で視野狭窄になる前に、命の現場にはそうした選択肢がいくつかあるということを忘れないでいてほしい。そしてもしあなたがいずれ子どもを作りたいと考えているならば、こうした知識をあらかじめ持っておくのも大事なことに違いない。

文=荒井理恵

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