ビッチで一途ってどゆことよ? 恋愛初期の無敵時間が詰まった至福の160ページを体験せよ『一途ビッチちゃん』

マンガ

公開日:2020/5/30

『一途ビッチちゃん』(色のん/KADOKAWA)

 まだ付き合ってないけど、いつか付き合うのかもしれない。

 恋愛の初期において、もっともテンションが上がるのが、そんなふうに思っている期間ではないだろうか。なんでもない会話のはしばしがきらめきを纏い、まだ何も起きていないのに良いことが起こる気がしてならない。そんな無敵時間が160ページ続くのが、『一途ビッチちゃん』(KADOKAWA)である。ツイッターで大人気の漫画家色のん、注目のデビュー1作目だ。

 本作のヒロインである「後輩ちゃん」は、誰もが目を奪われるほどの美少女。彼女は1つ年上の先輩が好きで好きでしかたがなく、あの手この手で誘惑する。しかし先輩は、彼女の好意を一身に浴びてなお「もっと自分を大切にしなさい」とたしなめる。男子高校生とはにわかに信じがたい理性の持ち主である。据え膳食わなすぎではあるまいか。

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 後輩ちゃんは基本的には、他人に対してきわめて態度が悪い。先輩と、それ以外の人間へのギャップがエグい。これがまた、本作の魅力のひとつである。寄ってくる男を壮絶な睨みで退散したあと、先輩にじゃれつく彼女の様子に「若干ヤンデレ…?」と思ってしまうが、その不安定さこそが2人の関係性をさらに濃密にしていくので万事OKであろう(?)

 ツイッターでの連載時から、おまえらもう付き合っちゃえよ…と呟かれ続けた本作だが、この単行本版ではそんな二人の関係がある進展を遂げる。ここで詳述することはできないが、なんといえばいいのか、実に…エモい。これまで二人を見守ってきた読者は、ぜひ見届けてほしい描き下ろしパートである。

「まだ付き合ってない」幸せな時間を160ページ浴びた私は、「何かいいこと」が起こるような予感が胸に宿っているのに気がついた。グイグイ迫ってくるかわいい後輩も、放課後いっしょに勉強する先輩もいないが、というか30を過ぎて久しいが、それでも何かよいことが起こる気がしてならない。人と会うこともままならないこの数ヶ月でささくれた心に光が差す、優しいラブストーリーである。