異世界転生したリア充女子高生を待ち構えていたのは、男尊女卑社会と薄っぺらなチート男!?

マンガ

公開日:2020/6/11

『JKハルは異世界で娼婦になった』(1)(平鳥コウ:原作、山田J太:漫画/新潮社)

 新型コロナウイルスの脅威は、私たちの「当たり前」を大きく変えてしまった。個人の働き方だけでなく、ビジネスのルールも大きく塗り替えている。これまで稼げていたモデルがうまくいかなくなったと思えば、日の目を見ていなかったコンテンツや才能が注目されることもある。数カ月前には想像できなかった今の生活。私たちは、知らない世界にいわば「転生」したのだ。

 本稿では、そんな今だから読んでほしい、一風変わった異世界転生の物語を紹介したい。『JKハルは異世界で娼婦になった』(平鳥コウ:原作、山田J太:漫画/新潮社)だ。刺激的なタイトルが目を引くマンガだが、原作は女性向けの小説投稿サイトに連載されていたもの。2017年にSF小説の老舗である早川書房が書籍化したことでも話題になった。

異世界転生モノにありがちなストーリーと真逆!?

 異世界転生モノといえば、よくある筋書きはこうだ。リアル生活が充実してない主人公が、ある日交通事故など突然のトラブルで死に、ファンタジー世界に転生する。そこで第2の人生が華々しくスタート。主人公は、住民たちが知らない現代知識や、転生の際に手に入れたチートスキルで無双し、ヒロインたちにはモテまくり…。こうした異世界転生モノのお約束は、しばしば「都合が良すぎる」と揶揄されることもある。だが、本作のストーリーはこういった定説とは真逆だ。

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 主人公のハルは、「スクールカースト高め」の女子高校生――だった。容姿に恵まれ、付き合っている相手はイケメンのサッカー部員。回りには自然と友達が集まり、充実した高校生活を送っていた。しかし、彼女の生活は、トラックに跳ねられたことで一変してしまう。転生先は、令和の世では考えられない「男尊女卑」がはびこるファンタジー世界。それでも、彼女は生きるために稼がなくてはならない。JKだった彼女にできるのは、酒場と娼館を兼ねる「夜想の青猫亭」で働き、小金持ちの冒険者たちの夜の相手をすることだけだった…。

『JKハルは異世界で娼婦になった』(2)(平鳥コウ:原作、山田J太:漫画/新潮社)

 そんなハルを目当てに、「夜想の青猫亭」に通い詰めるひとりの男がいた。彼女と同じトラックに跳ねられた同級生・千葉だ。いかにもなオタクで、口を開けばアニメの話ばかりする。そんな彼は、ハルとは反対に異世界を謳歌していた。チート能力を手に入れ、冒険者として活躍する。その姿は、典型的な異世界転生モノの主人公だ。彼は、モンスターを倒して得たお金で「夜想の青猫亭」に現れ、元の世界では手が届かなかったハルを買いにくる。

 異世界転生という「ルール変更」は、否応なく、理不尽に彼と彼女の世界を変えてしまった。私たちは、これをただ小説の中の出来事だと笑えるだろうか。進学や就職によって新しいコミュニティに入ったとき、パンデミックによる不況で世の中が変わったとき、強制的に「ルール変更」が行われてしまう。学生のころに勉強ができたからといって、社会に出てからも同じように評価されるとは限らない。昨日まで評価された能力やスキルが、明日にはもう使えなくなるかもしれない。

 ハルは、異世界転生によって大きな「ルール変更」を強いられる。それでも、与えられた環境に適応して生きていくしかない。「夜想の青猫亭」でたくましく生きる彼女の姿は、今の私たちにとてつもないエネルギーを与えてくれるはずだ。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7