これが「次にくるご当地マンガ」! どメジャーお菓子を生んだ愛知県豊橋とは?

マンガ・アニメ

2020/7/4

『だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!』(佐野妙/竹書房)

 豊橋って…? 『だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!』(佐野妙/竹書房)のタイトルをみてあなたはそんな感想を持つかもしれない。豊橋(市)とは愛知県東部、に位置する人口約38万人の街である。本作はそんな豊橋を舞台に描かれる、いわゆるご当地漫画だ。

 ご当地漫画として有名なのは、エキセントリックで過激な自虐ネタ満載の『翔んで埼玉』や、変わり者や呑兵衛たちがあふれる街を描いた『東京都北区赤羽』などがある。いずれもその地域に縁の深い作者(だからこそ許される)による“あるあるネタ”や“地元いじり”が、その街を知るひとから知らないひとまで楽しませてくれる。

 本作も御多分にもれず、地元民ならわかりみの深いネタが満載。ただ「さすがに豊橋はマイナーすぎるのでは…?」という方がいるかもしれない。しかしご存じだろうか。どメジャーなお菓子“ブラックサンダー”、そしてコーヒー1杯の値段でパンやサラダがついてくるサービス“モーニング”(※)は豊橋発祥であることを。

 そんな新鮮な驚きを与えてくれる街・豊橋を、主人公の女子高校生、国元ほのかと一緒に楽しんでみてほしい。

※モーニングの発祥の地には諸説あり

全国区になりつつある? 愛知県豊橋市

 愛知県は大きく3つの地域に分けることができる。西部の名古屋市を中心とした尾張地域。中央に位置する西三河は、徳川家康の出身である岡崎市や“世界の”豊田市を擁する。そして愛知の東部、静岡県と接する東三河、ここに豊橋市はある。

 先にマイナーと書いたが、2020年上半期のNHK朝ドラ「エール」。そのヒロイン音(おと)の出身地ということで、豊橋はいままさに全国区になりつつある。

 豊橋市には新幹線が停まる豊橋(駅)がある。豊橋はJR東海道本線、飯田線、名鉄名古屋本線が集まるターミナル駅で(さらに路面電車である豊橋鉄道市内線も)、豊橋鉄道渥美線の新豊橋駅も徒歩数分だ。この豊橋駅周辺は駅ビル・カルミアをはじめ、商店街も広がり買い物にも便利。何が言いたいかというと、普通に栄えている街なのである。

 見てきたように言える理由は、本稿のライターが豊橋へ行ったからだ。2019年夏、東京から愛知へ旅行。帰るときに豊橋でいったん降りた。正直、自分が住む東京の某地域に比べて「めちゃめちゃ都会…!」と感じた。なお名古屋からかかる時間が想像以上だったのも印象深い。本作でもふれられているのだが、名古屋と豊橋には距離がある(文化的にも物理的にも)。

 なお私はお土産にブラックサンダーの大袋を買った。前述の通り、ブラックサンダーは豊橋の名産品のひとつなのである。

東京の女子高校生も驚いた! 超メジャーグルメを生んだ街

 とにかくページあたりの情報量が半端ではない本作。キャラクターたちの三河弁(の標準語訳)から、豊橋の習慣、文化、とりわけ食文化が東京から豊橋に引っ越してきた国元ほのかの目を通して描かれていく。

 目次をみると“ブラックサンダー”“キャベツ”“八丁味噌”“モーニング”など、ほぼ食べ物関係が並ぶ。そう、豊橋はグルメな話題にこと欠かない街なのである。

 これらのグルメをほのかに紹介してくれるのが、同じ高校の上級生・吉田ちぎり。豊橋愛にあふれる彼女は、若い世代が使わない三河弁を使いこなし、ほのかと読者を惑わせる。

 物語はこの2人、ほのかとちぎりを中心に進む。ただ“いいキャラ”は他にも。都市伝説や怖い話が大好きな、ちぎりの同級生・安曇潤(あづみじゅん)。尾張名古屋から1年前に豊橋へ引っ越してきた矢越奈々(やごしなな)は、名古屋巻きのような派手な髪形がトレードマークで、ことあるごとに名古屋が愛知ナンバー1であることを強調する。そして豊橋をライバル視する津辺先生は、八丁味噌マニアで西三河・岡崎を愛してやまない女性の教師である。

 彼らが所属するボランティア部の部室では、日々彼らの濃厚な豊橋情報と熱い主張の応酬が行われる。そして最後は「おやつにしよまい」(三河弁で「おやつにしましょう」)となり、みんなでスイーツやご当地グルメを味わうのだ。ボランティア部は週2日の活動、おやつ付きなのである。

 ブラックサンダーの他にも“ピレーネ”“デセール”“五平餅”などは、思わず検索し、お取り寄せしたくなるだろう…!

おもしろさ、イナズマ級! のご当地漫画

 ひとつ言いたいのは、本作は情報量が多いものの、それだけを描いている漫画ではないということだ。ほのかが豊橋に引っ越してきた理由は“親の離婚”というシリアスなもの。なおほのかの母親が、なぜ自分の地元でもない豊橋で仕事をみつけて移住してきたのかは、1巻時点では明かされていない。ちょっとシリアスな展開もあるのだろうか…?

 読み応えという意味では、絵柄もキャラクターデザインもかわいい。たれ目のほのかと、つり目のちぎり、メガネっ子の安曇、ギャルっぽい矢越、といった描き分けもいい。冒頭で紹介し損ねていたが、作者の佐野氏は生まれも在住も豊橋市というバリバリの地元作家。2011年には『森田さんは無口』がアニメ化もされている。

 情報量の多さと方言で笑わせる、だけではない。きっちりご当地漫画としてのおもしろさにプラス要素があり、地元民以外もじゅうぶん楽しめるエンタメ作品になっている。発売即重版は伊達じゃない、のだ。おもしろさは、イナズマ級!

文=古林恭

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