親なきあと障害のある子のお金と生活が心配…。相続・遺言・成年後見制度をまんがと図解で解説する書籍

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公開日:2020/7/9

『まんがと図解でわかる障害のある子の将来のお金と生活』(渡部伸/自由国民社)

 自分がいなくなった後、子どもの将来はどうなるだろうか。障害のある子どもの親ならば、避けて通れない悩みのひとつだ。障害の程度によっては、銀行でお金を下ろしたり、スーパーで買い物をしたりすることも難しい。まして遺産として大きなお金を遺せたとしても、詐欺師などの極悪人に目をつけられてしまったら…。障害のある子どもが、ひとり残されて生活をする。そんな様子を案じて不安に苛まれる親たちの心境は、想像に難くない。

『まんがと図解でわかる障害のある子の将来のお金と生活』(渡部伸/自由国民社)は、将来への不安が一度でも頭を過ったら、ぜひ手に取ってほしい1冊だ。本書では、親なきあとを見据えて今からできる準備を、まんがと図解で分かりやすく解説する。本稿ではその一部を引用してご紹介するので、不安の解消に役立ててもらえれば幸いだ。

急いで将来の準備をする必要はないが…

 まず大前提として、本書は「今すぐ子どものために、親が亡くなった後の準備をしなくてはいけません!」と急かしているわけではない。親が子どもの面倒を問題なくみられるうちは、今の生活を続けても大丈夫だ。ただしたいていの場合、親は子どもより先に死ぬ。どうしても避けて通れない問題なので、余裕を持って準備を進めることができれば、親も子も安心して将来を迎えられる。

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 また本書は、税金やさまざまな生活面で優遇される障害者手帳、ハローワークや障害者就業・生活支援センターなど障害者の就労を支援する場所、障害者の収入のひとつである障害年金など、生活に必要な基礎知識も解説する。しかし本書の後半で重点的に解説される「親なきあと」というテーマから外れるので、本稿では割愛したい。これらの基礎知識が知りたい人は、本書を手に取るか、自治体の窓口でどっしり腰を据えて相談しよう。

子どもにお金を遺すよりも大切な準備

 障害のある子どもの将来を案じて、できるだけお金を遺そうと考える親がいる。本書では「お金はないよりもあったほうがいいでしょうが、そのお金が本人の将来のために使われる仕組みを準備することが大切」と指摘する。

 例えば兄弟や姉妹がいる家庭の場合、お金を遺す配分や誰が面倒をみるのか、ということがポイントになる。障害のある子どもに多く遺すと決めても、他の兄弟姉妹や親族が納得しなければ法廷で争うことになりかねない。争いを避けるため親が遺書を作成したとしても、遺書として成立させる要件がいくつかあり、ひとつでも間違えば無効になってしまう。

 そこで大切なのが、相続の基本を知ること、余裕のあるうちから遺言をはじめとするエンディングノートを書き始めること、そして子どもたちとしっかり話し合っておくことだ。

 どうしても障害のある子どもに多く遺したい場合は、「付言事項」と呼ばれる「生前に伝えられなかった故人の思いや意向」を遺言に添えて、相続人に伝えよう。付言事項に法的拘束力はないが、残された子どもたちに「親の意思」を伝えることで、理解を促せられるのだ。

 また相続に関する書類では自筆のサインが必要になる。自力でサインできない相続人がいる場合、遺言で「遺言執行者」を指定すると手続きがスムーズになる。

 このあたりの詳しい解説は本書にあるので、気になった人はぜひ手に取って確認してほしい。

子どもに一定の生活費を定期的に渡せる特定贈与信託

 遺したお金が正しく活用される仕組みとして、特定贈与信託がある。これは障害のある人の「親なきあと」の生活を安定させるため、家族が金銭などの資産を信託銀行などに信託することだ。

 家族と契約を結んだ信託銀行は、預かった財産を管理し、その障害者に定期的に生活費などを渡す。通常は財産を贈与した場合、年間110万円を超える金額に対して贈与税がかかる。しかしこの制度を利用すると、障害の程度に応じて一定の金額が非課税になる。信託銀行によっては、銀行に支払う報酬や手数料がかからない場合もあるので、気になる人は足を運んで話を聞いてみよう(とても個人的な意見だが、中には自分に合わない商品をすすめられる可能性もあるので、複数の銀行で検討することをオススメする)。

子どもの生活を支える成年後見制度を今のうちから検討しよう

 相続面がクリアできても、障害のある子どもの生活が破たんしては、お金を遺す意味がない。面倒をみる兄弟や親族がいればいいが、兄弟親族が信用できなかったりひとりっ子だったりする場合は、成年後見制度を活用しよう。

 この制度は、本人の行為を制限するかわりに、本人に代わって法律行為をする人を決めて、実際にその法律行為をしてもらうものだ。具体的には、金銭の管理や入所施設の契約手続きなど、障害の程度で大きく変わるが、かなりの範囲の生活のサポートを行う。

 成年後見人には特に資格がないので、兄弟や親族、場合によっては友人や知人など、誰を指名しても大丈夫だ。ただしそれを認めるかどうかは家庭裁判所次第。

 成年後見制度は家庭裁判所で利用の申し立てができる。しかし後見人本人が未成年だったり、破産や借金をしていたり、どうも問題がありそうだと判断したら家裁が認めてくれないこともある。特にここ数年は、親族以外の専門職を後見人として指名する傾向が強くなっているという。

 また成年後見制度には不安な点も否めない。信頼して後見人をお願いしても、財産管理だけしかしてくれなかったり、面倒がって福祉サービスの利用をしてくれなかったり、最悪の場合、横領などの犯罪に手を染めることもある。社会福祉法人などが運営する法人後見を活用する方法もあるが、責任の所在があいまいだったり、意思決定が遅かったり、頼りない部分もある。

 そこで大切なのは、相談窓口で成年後見制度をよく知ることだ。障害の程度によっては、子どもは後見人なくして生活が成り立たない。そこで余裕のある今のうちに成年後見制度のメリットとデメリットをしっかり目にして、どの選択がベストかじっくり考えよう。

4つの準備ができればひとまず安心

 どれだけ準備を進めようと、子どもが可愛くて将来を案じてしまうのが、親という生き物である。本書では主に4つの準備ができればひとまず安心と請け合っているので、ぜひ参考にしてほしい。

 障害年金や福祉手当をはじめとする「定期的にお金を受け取る仕組み」、成年後見制度など「子どものお金が適切に使われる仕組み」、入所施設やグループホームなど「住む場所と支援の確保」、そして困ったときに頼れる人や組織とつながっておくこと。ひとまずこれらの準備を進めよう。

 特に最後の、支援してくれる人や相談機関を確保しておけば、たとえ親が道半ばで先立つことになろうとも、必ず誰かが子どもの面倒をみてくれる。だからこそ今のうちに福祉施設や自治体の窓口などにどんどん顔を出して、頼れる場所を積極的に広げていこう。

 また本書を読んで感じたのは、情報を収集することの大切さだ。なにも知らなければ将来の準備の“検討”さえできない。まずはどのような制度や福祉サービスがあるのか、将来のため選択できる手札をどんどん増やすことが先決かもしれない。

 子どもに対して愛おしい気持ちがあればあるほど、親なきあとの不安が募る。それを解消するには今のうちから少しずつ行動して、将来の環境面を整えてあげるしかない。本書はその助けになるので、参考になれば幸いである。

文=いのうえゆきひろ