たとえ化物が見えたとしても、絶対に反応してはいけない……? 話題沸騰のホラー・コメディ『見える子ちゃん』

マンガ

公開日:2020/7/25

『見える子ちゃん』(泉朝樹/KADOKAWA)

 もうじき夏がやってくる。そして夏といえば、ホラーの季節だ。

 寝苦しい夜にホラーマンガを楽しむのは、とてもよい。ページをめくるたび、なんだか気になる背後の気配。窓の向こうの物音がやけに耳に響き、背中を嫌な汗が伝う……。どんな熱帯夜も、ホラーマンガさえあれば安眠間違いなし(?)。

 そんな時期を迎える直前だからこそ、オススメしたい一作がある。それが『見える子ちゃん』(泉朝樹/KADOKAWA)だ。

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 本作の主人公は女子高生の〈みこ〉。彼女は、ふつうの人には見えない「異形の存在」を見ることができてしまう。

 その設定だけを読めば、「なるほど、この子が化物と戦うんだな……?」と想像するだろう。しかし、それは大きな間違い!〈みこ〉には化物に立ち向かう術が一切ないのだ。ではどうするかというと……、彼女は異形のやばい奴らをすべて「シカトする」のだ。

 そいつらはどんなところにでも現れる。路地裏で人を誘うように待ち受けているモノ、ベッドのなかに潜り込んでいるモノ、そっと隣に立っているモノ……。彼らを目撃するたび、〈みこ〉は驚き、目に涙を浮かべ、恐怖に震える。それでも彼女は「シカト」を続ける。

 ホラーが好きな人のなかには、「自分も霊が見えたら面白かったのに」と考える人たちがいる。ぼくもそのひとり。幼い頃、心霊番組に出てくる霊能者を見ては、彼らの能力を羨ましがったものだ。でも、実際〈みこ〉のように日常的に化物が見える体質になってしまったら、たまったもんじゃないだろう。どんなにグロテスクで不気味な姿を目にしても、反応してはいけない。まるで四六時中ドッキリを仕掛けられているようなものだ。

 とはいえ、本作は恐怖に全振りしているマンガというわけではない。化物をシカトする〈みこ〉の日常を面白おかしく描いており、その不憫さにちょっと笑えてしまうのだ(みこちゃん、ごめん)。

 また、〈みこ〉の周りにいるのも一風変わった人たちばかり。強力な生命エネルギーを持つがゆえに化物を呼び寄せてしまう〈ハナ〉、霊能力者にあこがれている〈ユリア〉、そして、無数の子猫の霊に寄り付かれている教師・善。第2巻のラストで登場する彼は、〈みこ〉に不穏さを感じさせる。こいつはやばい……。

 遠野がなぜ子猫の霊に囲まれているのか。そして街で発生する「動物虐待事件」との関連は? 第3巻のラストでは意外な結末に驚くとともに、ホッと安堵が訪れるだろう。

 この夏イチオシの『見える子ちゃん』。ホラー好きはもちろん、苦手意識のある人も、騙されたと思って読んでみてほしい。

文=五十嵐 大