八王子の工業高校のヤンキーたちが、魔物相手に大暴れ! 異色の「異世界転生モノ」に胸アツ!

マンガ

更新日:2020/12/24

『異世界ヤンキー八王子』(奥嶋ひろまさ/双葉社)

 ヤンキー×弁当、ヤンキー×銭湯など、ヤンキーを主人公にさまざまなテーマを組み合わせ、独特の世界観を魅せてきたマンガ家・奥嶋ひろまささん。彼の描くヤンキーはどこか可愛らしく、人間味があり、愛らしい。「ヤンキー」にちょっと抵抗がある人でもすんなり読めてしまうのは、奥嶋さんの手腕に寄るものだろう。

 そんな奥嶋さんが、またしても新しい作品を生み出した。それが『異世界ヤンキー八王子』(双葉社)だ。

 本作はタイトルからもわかる通り、ヤンキーに「異世界」をかけ合わせたもの。最初にタイトルを見たときは、正直、「一体どういうこと……!?」と思ってしまった。けれど、数ページ読んで納得。安定の面白さだったのだ。

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 メインキャラクターとなるのは、八王子覇権工業高校に通う4人のヤンキー。とにかく喧嘩に強い星野と、その仲間である堀井、藤澤、加藤だ。彼らは周辺高校の“頭”を潰し、無敵のヤンキーとした名を知らしめていた。






 ところが、あるとき、ひょんなことから4人は未知の世界――異世界に学校ごと飛ばされてしまう。そこには魔物がはびこり、人間たちが蹂躙されていた。

 異世界に飛ばされた彼らの目の前に現れたのは、ひとりの少女。どうやら彼女は人面樹と呼ばれる木の魔物に追われているらしい。さすがのヤンキーも、そんな異形の生物を相手にできるのかというと……、そこはまったく問題なし!

 工業高校に通っている彼らは道具の扱いもお手の物、校舎からチェーンソーを引っ張り出し、人面樹を一刀両断してみせる。初めて魔物と対峙するというシリアスなシーンにも拘わらず、ここはめちゃくちゃ爆笑してしまった。

 その後、彼らは少女に連れられて小さな村を訪れる。そこは“オーク”の襲来に悩まされているという。けれど、星野たちは、もちろんその撃退も引き受ける。なんという柔軟性。そして、細かいことを気にしない懐の深さだろうか……。

 そうして彼らはいつしか、伝説の“勇者”として祭り上げられることに。異世界の伝承によれば、世界が危機に陥ったとき、黒衣に身を包んだ8人の王子が現れるというのだ。

 でも、星野たちが着ているのは黒衣ではなく、ただの学ラン。そして8人の王子ではなく、ただ八王子出身なだけ。そう、完全に誤解なのである。

 けれど、流れに乗ってやっちゃうのがヤンキーたちのいいところ(?)。星野たちは異世界を救うために立ち上がってみせるのである。

 本作でもやはり魅力的なのは、奥嶋さんが描くヤンキーたちの人柄だ。多少喧嘩っ早いところはあるものの、彼らは弱いものいじめを許さない。相手が他校のヤンキーだろうと、異世界の魔物だろうと、彼らからすれば一緒。困っている人のためならば、拳を振るってみせる。その姿はまさに勇者そのもの。めちゃくちゃカッコいいのだ。

 第1巻のラストでは、どうやら同じように飛ばされてしまった他校のヤンキーたちも姿を見せる。きっと星野たちと一触即発の出会いを果たすだろう。

 しかし、ここで思い出すのは異世界に伝わる伝承――8人の王子だ。つまり、星野たち4人のほかに、あと4人の王子がいるということ。きっと彼らは拳で語り合い、最終的には世界を救うために力を合わせるに違いない。その展開を想像するだけで、いまから胸アツである。

 あるようでなかった、ヤンキー×異世界マンガ。この独自の世界観をぜひ楽しんでもらいたい!

文=五十嵐 大
(c)奥嶋ひろまさ/双葉社