スピーチが苦手な人必読! コロナ禍で称賛された「リーダーの言葉の法則」を読み解く!

ビジネス

公開日:2020/7/13

『パワースピーチ入門』(橋爪大三郎/KADOKAWA)

 新型コロナウィルス危機下、あらためて問われたのは「リーダーの指導力」だ。

 人びとの信頼を勝ちえたリーダーもいる一方で、その任に耐えず、評価を下げたリーダーもいる。

 この困難と立ち向かい、世界に称賛されるスピーチを発信したのが、クオモNY州知事とメルケル独首相だ。

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クオモNY州知事の伝え方

 クオモ知事は、1957年生まれの62歳。父もNY州知事で、民主党員である。弟のクリス・クオモは、CNNでニュース番組のアンカーを務めている。3月初めにNY州の感染が始まるとすぐ記者会見を開き、テレビ中継された。以後毎日、記者会見を続けている。

 クオモ知事の会見は、事実→意見→討論(記者とのQ&A)の順序で進む。特徴としては、事実と意見をはっきり分けて話すところにある。検査数、入院患者数、病床の数など、データを事実として淡々と伝えて、やるべきことを明確に提示している。

 クオモ知事は、雄弁家ではないが、理系っぽいスピーチで、余計なことや、もって回ったことは言わない。明快であることで信頼を獲得している。

 また、わかりやすい英語を使うのも特徴のひとつだ。アメリカは移民の国で、英語がよくできない人がとても多く、そういう人びとに気を配っているのだ。

 クオモ知事のスピーチから、事実を示す大切さ、聞き手への気配りを学ぶことができる。

メルケル首相の言葉の紡ぎ方

 アンゲラ・メルケル、1954年生まれ、65歳。西ドイツのハンブルグで生まれ、父が牧師だった関係で、東ドイツに移った。真面目で目立たぬ学生で、物理学者となった。ベルリンの壁が崩れたのを機会に、政治を志す。東西ドイツの統一後はキリスト教民主同盟(CDU)で活動。2000年から党首、2005年から首相を務めている。

 メルケル首相は、視聴者の目をみて、ゆっくりしっかり、噛みしめるように話す。しかし、言っている内容は厳しい。近隣諸国の入国制限や、経済活動、社会活動の制限について曖昧にせずに、現実を語る。

 メルケル首相のスピーチの特徴は、自然体の言葉を使っているところだ。誰でも分かる言葉だから、たとえ厳しい現実を示しても、「そうか、そのように行動すればいいのか」とすっと、受けとめることができる。

 メルケル首相のスピーチから、人の心を掴む言葉の紡ぎ方を学ぶことができる。

パワースピーチの実践者たち

 本書では、数多くのスピーチを引用し、世界から称賛される理由を読み解いている。

 例えば、コロナ禍で注目されたクオモ、メルケルに加えて、チャーチル、福澤諭吉、斎藤隆夫を引き合いに出しつつ、パワースピーチの秘訣を明らかにしている。

 さらに、古今東西の事例にとどまらず、スピーチの原稿の磨き方から、教育方法、実践例をもとにした添削も行っている。

 巻末には、スピーチ原文があるので、何度も読んで、体得しよう。

 会社や、学校、集会などさまざまな局面で、スピーチをすることを求められるが、スピーチが苦手な人も本書を読めば、人の心を揺さぶり動かすスピーチの極意を学ぶことができる。

【著者プロフィール】
橋爪大三郎 1948年神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。77年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。『4行でわかる 世界の文明』(角川新書)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)など著書多数。