次にくるマンガ大賞2019にもノミネート! 戦場に送られる少女たちの切実な絆を描いた大注目のガールズコミック『きみが死ぬまで恋をしたい』

マンガ

公開日:2020/7/18

『きみが死ぬまで恋をしたい』(あおのなち/一迅社)

 2巻は発売前重版が決定し、次にくるマンガ大賞2019にもノミネートされた、いま大注目のガールズラブコミック『きみが死ぬまで恋をしたい』(あおのなち/一迅社)。タイトルの“死ぬまで”というのは単に“生涯”という意味ではなく、いつ戦場に送られ命を落とすともしれない少女たちの、死と隣り合わせの日常を示していて、本作における恋は、熱に浮かされた情動ではなく、生きるために必要なよすがとして切実に描かれる。

 主人公のシーナの通う学校は、身寄りのない少年少女に魔法を教え、戦地で戦うすべを叩きこむ国戦用魔術兵器育成機関だ。孤児院の役割も果たすその場所で彼女たちは共同生活を営んでいるのだが、物語はシーナのルームメイトが戦地で命を落とすところから始まる。戦場に駆り出される生徒や兵士は、死ぬとすぐ身体が消えるようになっているから、遺体に対面することもできない。悲しい、けれど悲嘆にくれるほどの実感をもつことはできず、あたりまえのように日常は続き、心にぽっかり穴のあいたようなさみしさと、いつ自分が召集されるかもしれないおそれを抱きながらシーナは訓練を受け続ける。その穴を埋めてくれたのが、新しいルームメイトのミミだった。

 ミミは“絶対に死なない最強の秘密兵器”と噂される少女だ。返り血をあびながらも笑顔で、人を殺すことにも罪悪感がなさそうで、何度も戦地に呼ばれながらおそれている様子はかけらもない。一度も呼ばれたことがなく、模擬授業をこなすのも精いっぱいのシーナとは正反対。だから最初、シーナはミミのことが苦手、というよりも得体のしれないもののような気がして、避けていた。けれど彼女もまた痛みを知る人間なのだと知ってから、シーナは少しずつミミに歩み寄りをはじめ、他者と隔絶して育てられてきたミミもまた、はじめての“ともだち”であるシーナに想いを寄せていく。

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 だが、相手を大事に想えば想うほど、自分が死ぬことも相手が傷つくこともどんどん、怖くなる。今は自分の身を顧みることなく敵に突っ込んでいくミミだが、シーナとの関係が深まるほどにきっとシーナを悲しませたくない気持ちがふくれあがっていくだろう。それが無事に帰るための強さに繋がればいいのだが、戦場での“隙”に転じる可能性もなくはない。そして、シーナにもいずれは戦場へ赴く日が来るはずで、怯えてばかりの彼女は果たして敵を倒し生き抜くことができるのか……。二人の関係が育てば育つほど、その行く末にはハラハラさせられてしまう。

 負傷した相手に口移しで魔力を送る回復魔法、絆を確かめ合うように机の下でこっそり絡め合う指先、といった少女たちの甘美な関係ももちろん本作の魅力だが、それを際立たせるのはやはりいつ死ぬともしれない彼女たちの境遇だ。“ずっと一緒”が約束されないからこそ彼女たちの結びつきも強固になっていく。シーナとミミだけでなく、すでに関係を確立させているクラスメートのアリとセイランの行く末も、少しずつ明かされていくミミの秘密とともに、要注目である。

文=立花もも