歯並びに興奮するJKに押し倒される陰キャ男子! ちょっと歪んだ学園ラブコメ
公開日:2020/7/24

「歯を見てると濡れちゃうんだよね…」とのたまう才色兼備のJKと、陰キャ男子の恋物語が『不完全で不衛生でふしだら』(すのはら風香/KADOKAWA)である。
相当Hなマンガなのかと言えばそんなことはない。湯上麻衣子は歯フェチで下ネタも飛ばすが、基本は純情な少女だ。そんな湯上にぐいぐいと言い寄られるのが、常時マスクを着けている氷住龍司である。
『ふふふ』こと“ふかんぜんでふえいせいでふしだら”は、こんな湯上(ゆがみ)と氷住(ひずみ)の少しイビツなボーイ・ミーツ・ガールだ。Hで、笑えて、もちろん思う存分ニヤニヤできる。
ただ個人的に本作は、王道ラブコメのひとつ奥を丁寧に描いているのが素晴らしいと感じた。
陰キャ男子、美少女に押し倒されて口をいじられる
氷住龍司は外でほとんどマスクをはずさない。このご時世だから…というわけではない。あるトラウマによるものだ。いずれにしても見た目通り陰キャで、昼食をトイレ前の踊り場でひとり食べるような毎日をおくっていた。
そこにある日、同じクラスの歯科医の娘・湯上麻衣子が現れる。するとマスクをとって食事をしている氷住の歯を目にし、顔を赤らめてこう言った。
“いーってして
綺麗…”
彼女は歯並び(の悪さ)の造形美に性的興奮をおぼえる歯列フェチだった。氷住は引きながらも、この「綺麗」という言葉のもつイビツな響きに心を囚われる。
それからというもの湯上は氷住の歯を磨くようになる。押し倒して馬乗りになって…。こうして謎のイチャコラ時間(?)が日課になる。
“なんで手出してこないの?”
“あとこれ恋愛感情だと思うんだけど”
湯上がこんな告白をし、本稿の冒頭の刺激的なセリフを話すまでが1話。彼女はルックスもスタイルもよく、氷住はまんざらでもない。最初から距離はかなり近いが、歯磨きによってどんどんふたりの気持ちも近づいていく。
笑えてエロいシチュエーションが続き「付き合っているようなもんじゃねーか」「もう付き合っちゃえばいいのに」と読者は言いたくなるだろう。ただ氷住は「あいつの言う恋愛感情は性愛と同じで俺に惚れたわけではない」とひねくれた認識でいる。しかもマスクが手放せなくなったトラウマは、過去の恋愛によるものなのだ。もどかしい物語が、続いていく。
「幸せになりたい」不完全で不衛生でふしだらでフクザツな高校生
歪んだ性癖をもてあます湯上と、ちょっと恋愛にひねくれてしまった氷住。彼らはおもしろおかしいところはあるものの、普通の高校生だ。しかも2年生で、いよいよ将来に悩み始めている。
湯上は歯医者の家に生まれ、歯が大好きで、小さいころから大学の歯学科を目指して勉強をしている。ただ家は兄が継ぐことが決まっていた。ある日「歯は好きでも削ったり矯正は嫌い(歯並びの悪さが好き)な奴は、歯医者に向いてないんじゃねーの?」と氷住に正論を言われてしまう。湯上は考えた挙句「私は幸せになりたい」と言う。ただ氷住には「もっと具体的に考えろ、なんだよ、小学生かよ」とイラつかれる。
地雷を踏んだ…? と湯上は思う。が、それは奇しくも氷住が進路調査票に書いた言葉だった。「幸せになりたい」と一言だけ記入した調査票を提出した彼もまた、自分が何も考えられず、子供っぽいことにモヤモヤしていた。
漠然とした不安をどう解消したらいいか分からない。そんな高校生たちの想いも丁寧に描かれている。
マスク男子を押し倒し、猟奇的に口内をまさぐる湯上は、不完全で不衛生でふしだらで、おまけにフクザツだ(もちろん氷住も)。
彼ら不安定な高校生たちの、トラウマと不安、そして恋愛は美しい。このことを多くのひとに確かめてもらいたい。
文=古林恭