高校生が村上世彰氏の指導で株投資にチャレンジ! 今必要な「お金の教育」とは

ビジネス

公開日:2020/8/3

村上世彰、高校生に投資を教える。
『村上世彰、高校生に投資を教える。』(村上世彰/KADOKAWA)

 授業のほとんどをスマホやPCで学ぶことから、「ネット高校」として話題になったN高等学校(学校法人角川ドワンゴ学園が運営)が開校(2016年4月)して、4年が経った。N校のNには、Newの他にさまざまなニュアンスが込められているらしい。斬新な実践教育として特に私が注目したいのは、課外活動である。その1つが、「投資部」だ。

 その特別顧問には、投資家で、元村上ファンドの村上世彰氏が就いている。その村上氏が、投資部の高校生に語った講義内容を、『村上世彰、高校生に投資を教える。』(KADOKAWA)としてこの度上梓した。

 本書は、村上氏の語った講義に加えて、投資部第1期生たちの、10カ月に及ぶ高校生投資家としての学びや成長の軌跡を、余すことなく伝えてくれる1冊になっている。

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村上世彰氏による株初心者向け入門書として、大いに活用できる

 村上氏と言えば、「村上ファンド」の代表として、物言う投資家として時に企業と対立しながら莫大な利益を上げた後、インサイダー取引の疑いで逮捕された。当時のニュースの映像を覚えている人も多いだろう。

 お金に関する修羅場を体験した著者が、高校生に対して、株式投資の基本から、極意までをレクチャーするのだから、著者による株初心者向け入門書として、十分活用できる。

 例えば本書には、株式投資とは何かという基本から始まり、投資成功の決め手となる「期待値」の求め方や、PBR(株価純資産倍率)などの株投資に欠かせない数々の専門用語なども、わかりやすく解説されている。

 また「株の買い時、売り時」や「損切りのタイミング」に関しても、著者のこれまでの豊富な経験値をもとに、失敗例・成功例を具体的にあげながら解説している。それらの説得力は、言うまでもない。

 こうした著者の講義をメインとしつつ、各章末にコラムとして、部員からの質問や感想と、それに対する著者の回答が収録されている。

 この章末のQ&Aや対話が、また読みどころ満載なのだ。例えば、「eスポーツ市場に興味がある」という部員が、この分野への投資をどう思うかと村上氏に尋ねる。すると「私自身はあまり得意な分野ではない」としながらも、PER(株価収益率)などの用語を交えながら、成長途上の分野における株の考え方を述べる。

高校生に投げかける、村上氏の「熱い言葉」の数々

 そもそもなぜ高校生に投資を教えるのだろうか。本書で村上氏は「お金とは、あくまでもツール、道具」であることを強調する。そして「お金に振り回される人生にしてはいけない」と言うのだ。

 どうすれば、「お金の教養」が身につくのか。その1つの解が、村上氏とN高が行っている、「株式投資の体験」なのだ。

「投資を通じて、まず知って欲しいのは『怖さ」です』と村上氏は言う。怖さと言っても、やみくもに恐れることではない。ここで述べているのは、リスクを正確に見極めるための感覚のことだ。そして先述の、お金はツールである、という話題になる。お金の「怖さ」を知り、これからの長い人生を生きていく上で持ち合わせて欲しい「お金観」こそ、村上が本当に伝えたいことなのだろう。それにしても、部員たちの成長ぶりはすごい。企業のIR(株主用窓口)に電話をし、企業訪問までおこなっている。それらの活動をまとめたレポートが、本書にも収録されている。普通の高校生、いや大学生でもほとんど経験し得ないような活動を通して、社会を見る視野は格段に広がったことだろう。その成長の過程は、コラムとして収録されている感想レポートから、十分に読み取ることができる。

 この国の将来について、悲観的な言説も多いが、村上氏は将来の日本は決して暗くないという。しかし、様々な職業にAIが持ち込まれる中での職業選択については、警告を発している。

 そのなかで、投資家の未来についても、村上氏は述べている。例えば投資活動の中でもデイトレードと呼ばれる超短期型の投資はAIに優位性があり、これから先デイトレードを主とする投資家は淘汰されるとみる。そうした時代に、生き残れる投資家、将来の企業価値を正しく把握できる投資家に必要なのは何なのか。これからの時代を担う高校生へのアドバイスには、往年の「村上ファンド代表」とは少し印象が異なる、若者への期待の込められた優しい眼差しを感じた。

 投資の技術について学びつつ、金融教育を実践した高校生の成長過程も楽しむことができる、きわめて実践的な「お金の教科書」である。

文=町田光