“大炎上”も露出狂との遭遇も、のほほん笑える話に!? 山本さほの実録マンガ

マンガ

公開日:2020/8/8

きょうも厄日です
『きょうも厄日です』(山本さほ/文藝春秋)

 リサイクルショップで働いていた23歳のとき。オープン前の時間に、自動ドアを手で開けて入ってきたおじさんがいた。

 オープン時間を伝えると、「じゃあもっと大きく書いといてよ!!」と難癖をつけはじめるおじさん。「すみません~」と平謝りをしていたが、顔を上げてよくよく見ると、おじさんの下半身はブリーフ一丁。しかも何か出てる……? 左右から一つずつ、ドラゴンボールが出てる……!?

 ……というのは、山本さほさんの実録ハプニング・コミックエッセイ『きょうも厄日です』(文藝春秋)の冒頭に登場する、露出狂おじさんのエピソードだ。

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 ここまでの描写だけでもおかしいのだが、この漫画の真骨頂はその先だ。

 110番への通報時、「ボールだけ出ていた」と山本さんが伝えたところ、電話口で対応した女性警察官は「性器本体は出ていないんですか?」と確認。そして「ほ、本体…?」「えっボールって本体じゃないんですか!?」「えっどうでしょう? 本体ではないような…」「えっヤダ~」「あっ…すみません」と、2人のあいだで交わされる不思議な会話……。

 起こっている事実は犯罪なのに、なんだかのほほんと笑える話になっているのだ。

 本書に登場するのは、この露出狂おじさんのほか、自分から追突事故を起こしておいて「えりなの方が痛かったんですけど!?」と逆ギレするギャル、うつ伏せで寝ている山本さんの全身を拳で殴り、最後には首の上に全体重をかけて乗っかってきたマッサージ師などなど……。

 冷静に事実だけを抜き出すと、笑えないほどヒドいことが起こっている話も多いのだが、『きょうも厄日です』のタッチは常に軽快でコミカル。人物の造形や表情もまんまるで柔らかく、とにかく愛らしい。

 本書のあとがきで山本さんは「漫画を読んだ人が笑ってくれたらどんな不幸も帳消しです」と書いているが、この漫画では実際、山本さんの身に起こった不幸が笑いとして昇華されている。

 読者は山本さんの身に起きたヒドい出来事を笑うとともに、不幸も笑って乗り越えられる山本さんの姿勢に、なんだか勇気のようなものをもらえる。「あー面白かった」と、不思議と心が癒やされ、読むことで前向きな気持になれる漫画なのだ。

 なお本書では、ネット上で“大炎上”し、ネットでもテレビでもニュースとして報じられた、世田谷区役所との攻防も特別編として掲載。以下のツイートのヒドすぎる話の背景が詳しく描かれている。

 読んでみると、役所の当該人物も、役所のその後の対応も、やっぱりおかしなことが多すぎて呆れてしまう。そしてヒドすぎる仕打ちを何度も受けているのに、このエピソードも「めでたしめでたし」と笑顔で締めてしまう山本さんに、やっぱり笑ってしまうのだった。

文=古澤誠一郎