バリキャリ女官と偽りの皇帝が後宮にうずまく陰謀を暴く! 話題の中華ファンタジーがコミカライズ!

マンガ

更新日:2020/9/7

後宮の花は偽りをまとう
『後宮の花は偽りをまとう』(六格レンチ/双葉社)

 後宮が舞台の中華風ファンタジーといえば、さぞかし陰湿な女のバトルが描かれるのだろう、と思いきや、意外なほど骨太な帝位をめぐるミステリーだった『後宮の花は偽りをまとう』(六格レンチ/双葉社)。天城智尋氏による同名小説をコミカライズしたものだが、なんといっても主人公の造形がよい。

 戦で村を焼かれ、妹と2人命からがら逃げだした陶蓮珠(とうれんじゅ)は、その後、都の福田院(養護施設)にひきとられる。「ある目的」のために、必死で勉強し官吏として宮城に入った彼女。遠慮がなく、上司にも平気でたてつくかわいげのない女官として知られる彼女は、ある日突如、声の好い爽やかな武官に求婚されるのだが、彼こそ帝位についたばかりの若き皇帝――ではなく、その双子の弟・翔央。皇帝その人は、輿入れしてきた隣国・威の公主と駆け落ちしてしまったため、同じ顔をした翔央が兄のふりをすることになったという。そして威国語を話せる蓮珠には、公主の身代わりを務めてほしいというのだ。

 身代わりを務めるために後宮に入る、という設定じたいは珍しくないが、夫も偽者というのはおもしろい。そして見いだされた理由が、ただ美しいからでも、身寄りがなくて御しやすいからでもなく、宮城で10年働いてきた功績と教養が評価されたから、というのもすごくいい。蓮珠が大役を引き受けることを決めたのは、駆け落ちが公になれば、ふたたび威国との戦争になりかねず、戦災孤児である彼女には見過ごせない事態だったからだろうけれど、それ以上に、国家の重大事をお前になら任せられると言ってもらえたのが大きい。誰より仕事は正確で速いのに、女というだけで疎ましがられ、出世は遅れ、もどかしく悔しい思いをしていた彼女にとって、これは立身のチャンスなのだ。そして、かつて自分を救い出し、彼女自身が「天帝(かみ)様」だと慕う恩人の面影をもつ翔央の、信頼にこたえるべく身代わりの妃となるのである。

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 もちろん異国の妃を蔑む他妃たちからのいやがらせなど、後宮ならではのバトルも描かれるのだが、そもそも威国との和平に反対する者も宮中には多い。さらに、引きこもり学者だった翔央の双子の兄が帝位についたのは、婚姻の話が出る以前から公主と恋仲だったからで、そんな理由でいきなり帝位を奪われたと逆恨みする長兄など、敵は枚挙にいとまがない。入宮式(結婚式)の最中に巨大な石像は倒れてくるわ、賜るはずだった絹に仕込まれた毒で女官が死ぬわ、脅迫状はわんさか届くわ、謎と事件がてんこもり。そもそもどうして帝と公主が駆け落ちしたのか、その真相も気になるところ。

 持ち前の聡明さと官吏としての能力から、謎を解く糸口を見つける蓮珠。ただ守られているだけじゃない、与えられた職務をまっとうしながら、意地と誇りをかけて戦いぬく彼女の姿には、働く女性のみならず、男性もみな共鳴するにちがいない。

文=立花もも