全員破滅エンドしか見えない! タワマンを舞台に描かれるママ友同士の人間模様

マンガ

更新日:2020/8/10

おちたらおわり
『おちたらおわり』(すえのぶけいこ/講談社)

「幼稚園のママ友」と聞いて、あなたはポジティブな印象を受けるだろうか、それともネガティブな印象を受けるだろうか。当然人それぞれの経験によって印象は変わってくるものではあるが、世間一般的には「面倒くさい関係」とみなされることが多いのではないだろうか。

 親同士の関係性が、もしかしたら自分の子どもの立場にも影響してしまうかもしれない。そういった不安を抱える母親もいるだろう。実際、インターネットで「ママ友」を検索すると、人間関係の悩みやトラブルについての記事が大量にヒットする。

 そんなママ友同士の人間模様を描いた漫画がある。すえのぶけいこ氏著『おちたらおわり』(講談社)だ。

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 主人公は夫と共働きで、フリーランスのイラストレーターをしながら、一児を育てる月島明日海。念願かなって新築のタワーマンションに引っ越し、アレルギーもちの娘でも安心な自然派の幼稚園に通わせる日々が始まる。

 格好良くて気さくな夫と、素直で優しい娘との、タワマンでの3人暮らし。一見、大変幸せそうに思えるが、それは明日海にとって泥沼の戦いへの入り口でもあった。

 タワマンに越してきてすぐ、そのマンションに住む「ママ友」たちと知り合う明日海。幼稚園が近いこともあり、同じマンション内にママ友が何人もいるのだ。もともと過去のトラウマからストレスに弱い明日海は、ママ友との初対面の挨拶ですらお腹を痛める始末。さらにそこに、過去のトラウマを植え付けた張本人である真宮孔美子もいるので青ざめる。

 孔美子と明日海はかつて同級生であり、そして明日海は彼女から壮絶ないじめを受けていたのだ。

 幸せな日々の始まりかと思いきや、過去の辛い記憶との再会に動揺する明日海。さらに、なにやら孔美子は明日海に対していまだに執着しており、ことあるごとに彼女の神経を逆なでするような言動をくり返す。

 この明日海と孔美子の対立に加え、物語が進むにしたがい、人気モデルを夫にもつ楠紗都や、男女の双子を育てインスタ映えで人気を集める桜庭心菜、自然派を好むおっとりとした性格の丸山朋代など、他のママ友たちが抱えている闇も噴出していきストーリーのおもしろさは加速していく。

 著者のすえのぶけいこ氏は、かつて『ライフ』で壮絶ないじめの現場を圧倒的な画力で描き話題になったが、その読んでいるだけで震えてしまうような迫力ある筆致は健在である。

 現在3巻まで発売され、物語はどんどん過激性を帯びている。最初はママ友同士の面倒くさい人間関係を中心に描くのかと思っていたが、この作品はそこにとどまらない。孔美子の明日海に対する嫌がらせは度を越え始め、他の住民たちも、同じマンションに住んでいるからこそ起こりうる不貞行為や恋の芽生えなど、もはや全員破滅エンドしか見えないほどに関係性は複雑に絡み合い始めている。

 ここで描かれるのは、あくまでフィクションであり、ママ友同士の悩みやトラブルの実態とはかけ離れたサスペンス的な物語かもしれない。しかし、その作中で時折描かれるママ友同士の会話や個人で抱える鬱憤はあまりにもリアルで、つい「ああ、いるいる、こういう人」と呟いてしまう。そういう日常と地続きの部分があるからこそ、突飛な展開にも振り落とされずについていける。決していい気分になる漫画ではないのだが、読む手が止まらない不思議な作品である。

文=園田もなか