ひとりでいたいから結婚する!? “曇キャ”なふたりが偽装結婚をもくろんだ先には…?

マンガ

更新日:2020/8/23

結婚するって、本当ですか 365 Days To The Wedding
『結婚するって、本当ですか 365 Days To The Wedding』(若木民善/小学館)

 結婚は勢いである。ふたりがそれぞれ、快適にひとりでいるために、勢いよく偽装結婚をする物語が『結婚するって、本当ですか 365 Days To The Wedding』(若木民善/小学館)だ。

 大原拓也は同じ部署で会話すらなかった本城寺莉香に、突然「私と、結婚しませんか?」と言われる。

 実は彼らが勤める旅行代理店が、シベリア・イルクーツクの新支店への異動を命じてきたからだ。誰に決まるかはこれからで、独身者がその対象となる。結婚の既成事実をつくることでそれが回避できるのだと莉香は言う。自分たちの、ひとりの生活を守るために、彼らは結婚に向かって歩みだす。

 結婚や入籍に勢いが必要だというのは、既婚者や結婚を考えた相手がいる人なら思い当たるだろう。盛り上がったところで一気に進めないと完走できないものだ。今回は新支店ができる365日後というタイムリミットがあるため、しっかりと迅速に進めなくてはならない。

 発売されたばかりの1巻を中心にレビューしていく。

お互いの快適なひとり生活を守るために結婚しませんか?

わかりにくかったかもしれないので、もう一度書くが、これはウソの結婚であった。少なくとも最初は。

 大原拓也は愛猫“かま”さえいれば幸せで、スパイス集めが好きな地味男子だ。少しトロいところがある。2歳年上の本城寺莉香は地図&旅行&石集めが好きという趣味人。美人だが愛想がなく、これまた目立たずに暮らしてきた。

 シベリアに行かずにすめば、ふたりそれぞれの楽しいひとり生活を守ることができる。拓也が莉香の提案を受け入れ、会社に報告したところで、彼らは予想外の状況に面食らう。勤務先は異常な盛り上がりをみせ、祝福の嵐が巻き起こったのだ。

「結婚するって、こんなにすごいことなのか」

 拓也と莉香は、著者の若木氏が自身のブログで書いているように“曇キャ(どんきゃ)”である。自分にいまいち自信が持てない人。陽キャでも陰キャでもない。好かれることすら、プレッシャーに感じてしまう。

 例えば、ふだんひとりで田舎を旅する莉香は、カップルがデートをするお台場に来て場違いだと感じ、観覧車から夜景をみて「キラキラしている。まるで“普通の”人生のよう」と例える。そして拓也に軽いプレゼントを渡そうとしたり、仕事の手伝いをしようとすることを「恥ずかしい」と感じ「やっぱりもう2度とすまい」と考える。こんな、ちょっと自分を低くみる傾向がある、自意識過剰な人のことだそうだ。

 彼らはそんな曇キャだからこそウソの結婚話を、深く考えずに勢いでやり始めたのだ。拓也も莉香も自分たちのような人間が、周囲に興味を持たれるとは思っていなかった。(いや結婚って言われたら普通は…なのだが)驚き、とまどう…。

ふたりが変わっていく先に待つのはウソから出たまことか?

 物語は、莉香がリードする形で偽装結婚の計画を進めていき、その中でふたりの変化が描かれていく。

 存在しない“なれそめ”をつくるため、デートをイメージしてみた莉香は、同じ部署なのに、拓也の年齢(年下の24歳)も知らなかったことに気づく。そして顔すら明確に思い出せないことに落ち込む。

26歳にもなって
なんていい加減な
人間なの

 拓也のほうはウソの結婚について頑張る莉香をサポートできていないことを、情けなく思う。また結婚指輪をはめる時、プロポーズの言葉を考えて口にする時に、その重さを感じる。

オレ、いくつなんだよ。こんな大人でいいのか…?

 恋愛を成就させるには、謙虚さや自分を変えようとすることが必要だ。あなたは好きな人ができた時、その相手に愛されるために自分に必要なことや欠けているものが何か、考えなかっただろうか。相手を思いやらなかっただろうか。本作は“ウソから出て、まことになるのか”がメインストーリー。その中で、ひとりでいたふたりの変化が、関係の進展にどう繋がっていくのか、もまた見どころである。

実はナゾ、莉香が拓也に声をかけた理由

 1巻では、まださまざまなことがつまびらかになっていない(直接的には)。そもそも莉香はなぜ拓也にこの計画を持ち掛けたのか。同じ部署でほぼ話したこともなかったというのに。「仲良くしたいと思っているわけでもない」と言いながらも、最初から拓也について気にしていた風にも読める。

 また「ひとりが最高」とコミュニケーション不全を自覚している莉香だが、彼女を気遣うメールを送ってくる相手がいる。降って沸いたようなふたりの仲を疑う不穏な動きもあり、さらに拓也の昔気質な親に彼らの結婚の情報が伝わる…。

 これから彼らの前に家問題や仕事など、さまざまな困難が立ちふさがる。なおこの記事の入稿時点で書けることは「莉香が“なんつーかわいいことをするのか”と“とにかくかわいくなっていく”」なので、個人的にはぜひ注目してほしい。

 勢いで突き進もうとするふたり、変化していくふたりを楽しめる本作。はたして「365 Days To The Wedding」(結婚式まで365日)というタイトル通りにいくのだろうか。

 多様な結婚の形が生まれ、結婚が不要とすら言われる時代、考えさせられる作品でもある『結婚するって、本当ですか』。未婚者も既婚者もぜひ読んでみてほしい。

文=古林恭

この記事で紹介した書籍ほか