ソフトバンクは最悪のシナリオを辿るのか? 巨大企業の足元に迫る、金融危機の恐怖

ビジネス

公開日:2020/9/3

ソフトバンク「巨額赤字の結末」とメガバンク危機
『ソフトバンク「巨額赤字の結末」とメガバンク危機』(黒川敦彦/講談社)

 連日入ってくる景気悪化のニュースに「まだまだこれでも終わらないのか…」と暗澹とした気持ちになる。ダメージは、弱い立場の人から始まっていくが、この状況が続けばいくら大企業に勤めているからといっても安心してはいられない。明日は我が身、とにかく1日も早くコロナが終息しますように…そんなことを誰もが心の中で願っているのではないだろうか。

 だが、実はコロナが解決しただけでは日本経済は危機から脱出できるわけではないらしい。「オリーブの木」代表の黒川敦彦氏は最新刊『ソフトバンク「巨額赤字の結末」とメガバンク危機』(講談社)の中で、コロナ以前から金融資本は膨脹しきっており「近々、リーマンショックの数十倍の金融危機が訪れます。」「金融危機はこれからが本番です」と声を大にする。

 コロナ・パンデミックによって2020年3月に世界の金融市場が急激に収縮し金融危機が意識されたが、アメリカ、EU、日本など各国政府が巨額の財政出動をして株価は約1カ月でほぼ元に戻った。だが黒川氏によれば、リーマンショック後の金融界は金融システムの見直しや規制強化を放置し、逆に金融工学を駆使してハイリスクの金融商品を世界中にばらまき、さらなる金融危機を内包している状態なのだという。

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 たとえば「ユニコーン」(評価額10億ドル以上の非上場、設立10年以内のベンチャー企業)や「AI」(人工知能関連企業)など、実態が伴わなくてもIT的というだけで有望と思われている市場は、実はウォール街に代表される金融資本家が投資家を騙すために捏造したようなものだと著者。当然ながらそうした実態と乖離した市場への投資は、いつ爆発するかわからない時限爆弾のようなハイリスクなもの。実はそんな危険な金融商品をまんまとつかまされているのが日本の企業であり、何かあったら日本経済全体が崩壊しかねない危機的な状況にあるというのだ。

 たとえばカリスマ経営者・孫正義氏率いるソフトバンクグループもそんな企業のひとつだという。孫氏の強気の姿勢により先進的テック企業などに惜しまず巨額の投資をしてきた同社は、もはや自らも認めるように、電気通信事業者ではなく投資企業。だが、そうした投資先企業の多くが業績不振となり、なんと今年の1月から3月期の営業損益は1兆4381億円の巨額赤字を記録してしまったのだ。実は以前からこうしたソフトバンクの抱える問題を指摘してきた著者だが、こうした悪夢が現実のものになった今、本書が描く崩壊へのシナリオはよりリアルさが増したといえるだろう。

 こうしたソフトバンクの危機を皮切りに、本書では三菱UFJ、ANA、丸紅、日本製鉄、イオン、楽天など日本を代表する多くの大企業の足元に迫る「金融危機の恐怖」を次々に明らかにしていく。さらに、なぜそうした状況が生まれるのか、FRBや日銀の役割などもひもときながら、実は一握りの層の「思惑」が牽引していると思われる国際経済の実態をも明らかにしていくのだ。

 知れば知るほど恐ろしいその内容は、日頃はあまり経済ニュースなどに興味がないという人でも「早く手を打たないと大変なことになりそう…」と思うに違いない。今すぐに何か自分にできるスケールの話ではないが、ひとまずこうした危機が足元に迫っていることは認識しておきたい。いざそれが未曾有の規模に拡大した時に世界はどうなるのか。その時、自分はどうするのか。巨大な恐怖の中でも「冷静」でいるために、今から読んでおいてソンはないだろう。

文=荒井理恵