平成30年、26歳の牛乳配達員の肉体労働の記録。キンキンに冷えた「牛乳のマンガ」

マンガ

公開日:2020/9/4

牛乳配達DIARY
『牛乳配達DIARY』(INA/リイド社)

 全国的な猛暑となった今年の夏。すっかりバテている方も多いのでは? そんな残暑、いつもと違う涼のとり方としてキンキンに冷えた「牛乳のマンガ」を読んでみるのはいかがだろうか。

 本書『牛乳配達DIARY』(INA/リイド社)は、かつて牛乳配達の仕事に就いていた男性が当時の記憶を綴ったエッセイマンガだ。「牛乳配達」と言われると、日焼けしたお兄さんが爽やかな汗をかき、1軒1軒回って元気に挨拶…なんて姿を想像するが、このマンガはちょっと違う。仕事自体は確かにそうだけれど、牛乳屋さんの「お仕事」と言うより「肉体労働」、ストーリーの焦点もお客さんとの「心温まる交流」ではなく主人公の「心の声」…といった具合に、どこかメランコリックな空気感をまとっているのだ。表紙の青年の虚ろな目がこのマンガの切ない世界観を物語っている。

 牛乳配達の仕事はハードだ。早朝から配達し、飲み終わった重い瓶を炎天下に回収する。配達を忘れたら謝りながら届けに行く。ガラス瓶をうっかり落として割ってしまうこともある。

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 配達先のおじいさんに理不尽に怒られることもあれば、配達の車の前に飛び出してくる子供で冷や汗をかくこともあるし、上司からはノルマをきつく言われたりする。そんな印象的な光景が生まれる度に、主人公の心の声がいつもドラマチックに展開していく。

 牛乳配達の同僚たちもとことん人間くさくて、基本優しい。ギャンブルでやらかしているベテランさん、素直だけど覚えが悪いやんちゃな後輩、主人公が恋心を抱く気立てのいい女性…など、どこかみんな隙があるけれど愛すべきキャラクターたちが主人公を取り囲んでいる。

 出来事も人間模様も、まるでちびまる子ちゃんの時代のような世界観。でも、作者は実は結構若い人だったりする。このエッセイマンガを描いたのは当時26歳だったバンドマンのINAさん。この話自体もわずか2年前という、つい最近の出来事だと言うからびっくりした。正直、今50を過ぎた中年男性が昔を懐かしんで描いたマンガと言われてもまったく違和感がないのだ。

 ずっとどこかに影があるマンガだが、なんだか乱反射のようなキラキラしたものを感じる。そんな記憶の数々は、読む側にとってまったく知らない別世界の出来事でありながら、なぜか主人公の心の声に共感し、その光景を追体験したような気持ちになれる。それはきっと「牛乳屋さん」という、人の心の原風景にある存在がベースとなっている部分も大きいのかもしれない。

 キンキンに冷えた牛乳はとにかく美味しい。ガラスの瓶入りだとまた格別だ。夏の終わりに、子供の頃見た牛乳屋の記憶を思い出しながら、ノスタルジックな気持ちになるのもいいかもしれない。

文=線