書類を崩さず置ける、猫にめちゃくちゃ好かれる…。誰もがしょうもない「異能」を持つオフィスコメディ!

マンガ

公開日:2020/9/6

しょうもないのうりょく
『しょうもないのうりょく』(高野雀/竹書房)

 突然だが、あなたは、普通の人が持っていない“ちょっと特別な能力”に憧れたことはないだろうか? 筆者は昔から、他者が本心では何を考えているかわからないのが不安で、「人の心が読める」能力があればなあ…と思うことが度々あったのだが、冷静になって考えてみると、読めたところで余計に疑心暗鬼になってしまいそうだし、本音を知っても、上手く立ち振る舞える気がしない。そのため最近は、「どれだけ食べても太らない」能力があれば…と、中々痩せない身体を見つめながら思っている。

 高野雀先生の『しょうもないのうりょく』(竹書房)は、なんと、誰もがちょっと特別な才能「異能」を持っている世界を舞台に繰り広げられるオフィスコメディマンガである。しかし、異能といっても、「誤字脱字を見つけられる」、「カロリーがわかる」、「目当てのものを直ぐに出せる」など、一見地味なものが多く、誰もが能力をフルに使って社会生活を営んでいるわけでもないようだ。本作の主人公・星野千里は、「書類を崩さず置ける」異能を持つ、マイペースな会社員なのだが、実はもうひとつ「他人の異能がわかる」という中々レアな異能も持っている。だが、精度は高くなく外れることもあるので、周囲には言わず、趣味で楽しむ程度に留めていた。

 物語は、そんな星野が勤務する“取るに足らない異能の持ち主”がたくさんいる会社の日常がゆるやかに描かれる。世の中には「使える異能をフルで使う」会社もあるようだが、星野の会社は、異能ではなく、後天的な努力を評価していた。彼女は、良い上司や同僚に恵まれ、楽しく働いていたのだが、ある日、元一流企業に勤めていたという長髪パーカーが目印の同僚男性・藤原が、「不老不死」という超レアな異能を持っていることがわかってしまう。藤原本人は、「異能がどうあれ楽しく過ごすのが一番」という考えを持っており、自らの異能を調べてないようだ。しかしある時、よからぬ目的を持った社長の弟が、星野と同じく「他人の異能がわかる」異能を持つコンサル会社の人間を会社によこし、社員の異能を把握しようとするのだが――!?

 本作は、「異能」マンガではあるが、何のバトルも起こらないし、ファンタジー要素もほぼない。ある意味とても地味ではあるのだが、異能を仰々しく捉えず、自分の好きなことや、やりたいことを大切に、あくまで地道に努力していく過程の大切さが、読後、じんわりと心の奥まで染み込んできたのが印象的だった。また、開発部の鳥居さんの「蚊を一撃で倒せる」異能や、会社の守衛さんの「猫にめちゃくちゃ好かれる」異能など、それは心の底からぜひ欲しい…! と思える異能がちょくちょく登場するのもおもしろい。

 自分の特技や才能と思える何かも、活かすも殺すも自分次第なのだなあ…と、フフフと笑いながら楽しめる、ちょっと不思議ながら地に足のついたマンガである。

文=さゆ

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