「愛の不時着」にちりばめられた“韓国ドラマオマージュ”、いくつ見つけましたか?

エンタメ

更新日:2020/11/21

愛の不時着
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(※本記事には一部ネタバレがあります)

「愛の不時着」は主人公のユン・セリがパラグライダーで北朝鮮の支配地域に落ちてしまうというところから始まる。それが北朝鮮軍人リ・ジョンヒョクとの38度線をまたいだロマンスの始まりなのだが、それにしても彼女、危険な状況であったと思う。地雷原を走り抜けてもたまたま地雷を踏まなかったり、いつもは高圧電流が流れているフェンスがたまたま破損していたりしたおかげで助かったが、普通ならただでは済んでいないだろう。偶然や幸運があったとはいえ、なぜ彼女は生き延びることができたのか。それはじつは、韓国ドラマのおかげだったのである。

 セリが必死で逃げていたとき、見張り塔ではジョンヒョクの部下であるキム・ジュモクが監視役を担当していた。だが彼は監視所のPCを使い、ヘッドフォンを着けて、仕事そっちのけで韓国ドラマを見ていたのである。それでセリは助かった。彼がそのとき見ていたのが「天国の階段」。2003年から放送され、韓国でも日本でも大人気となった、チェ・ジウ主演のメロドラマである。

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天国の階段
「天国の階段」U-NEXTで配信中/(C)SBS

 北朝鮮国内で表向きは禁止されながらも韓国ドラマが流通しているのはよく知られたことだが、筋金入りのドラママニアであるジュモクがセリに「天国の階段」の登場人物の今後について問い詰め、セリにそんな古いドラマに入れ込んでいることを突っ込まれるところなどは、「南」と「北」のズレをユーモラスに浮かび上がらせる名シーンだ。

 ドラマ後半ではセリを守るため韓国にやってきたジョンヒョクと、彼を連れ戻すために追いかけてきた中隊メンバーがソウルを舞台に活躍するのだが、そこでもジュモクは調査と称してネットカフェに入り浸ってドラマを見まくり、さらにはセリからのサプライズで彼女と「ご近所付き合い」のあるチェ・ジウ本人と感動の対面を果たす。

 そのときジュモクは、被っていたうさぎのモチーフがついた赤い帽子で目を隠して涙を流すのだが、あれは「天国の階段」でのクォン・サンウとチェ・ジウによる有名シーンのパロディである。さらにここでジュモクは「何か言いたいことは?」とチェ・ジウに尋ねられて、ドラマの名台詞を彼女に言わせたりもしている。さぞかしファン冥利に尽きたことだろう。

天国の階段
“涙の女王”と呼ばれたチェ・ジウ/「天国の階段」U-NEXTで配信中/(C)SBS

「天国の階段」にかぎらず、「愛の不時着」には過去のドラマや映画に対するオマージュやパロディがいくつも詰め込まれている。たとえば、「天国の階段」のチェ・ジウの代表作である、ご存じ「冬のソナタ」。第6話でセリがジョンヒョクに「初雪を一緒に見ると恋が叶う」というジンクスについて話すくだりは、「冬ソナ」へのオマージュだ。初雪の日にペ・ヨンジュン演じるジュンサンとチェ・ジウ演じるユジンがキスを交わす「雪だるまのシーン」はドラマの代名詞であり、韓国ドラマ史上屈指の名シーンである。

 その「冬のソナタ」のユン・ソクホ監督が手掛けた「四季シリーズ」の第1作が「秋の童話」。ジュンソ(ソン・スンホン)とウンソ(ソン・ヘギョ)の愛を描いたこの作品で、ヘギョを巡る恋のライバルであるホテルの御曹司(演じるのはウォンビン)が彼女に向かって言い放つのが「いくらだ、いくら払えばいい!」というパンチのあるセリフである。そう、「不時着」後半の「韓国編」で北からやってきた中隊メンバーが南の人間になりすますべく、ジュモクから習う「南の金持ちっぽいセリフ」がまさにこれだ。当時流行語にもなった言葉なので、韓国の視聴者は大笑いしたはずである。

アルハンブラ宮殿の思い出
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 それ以外にも、たとえばリ・ジョンヒョクがセリの自宅でネットゲームに夢中になっているときにBGMとしてジョンヒョク役のヒョンビンが主演した「アルハンブラ宮殿の思い出」の主題歌が使われていたり、相合い傘をして歩くジョンヒョクとセリの姿が、セリを演じるソン・イェジンの主演作「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」の1シーンの完コピだったり、ファンにはたまらない小ネタもそこかしこに差し込まれている。オマージュではないが、ジョンヒョクのフィアンセでセリにとっては恋のライバルとなるソ・ダンの母親(チャン・ヘジン)と叔父(パク・ミョンフン)の夫婦漫才コンビ(夫婦じゃないけど)が『パラサイト 半地下の家族』で超個性的な芝居を見せていたふたりだったりするのも、映画を観た人にとってはニヤニヤポイントだろう。

よくおごってくれる綺麗なお姉さん
「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」U-NEXT、Netflix等で配信中/(C)Jcontentree corp. all rights reserved

 最後に、おそらく元ネタを知らない人が見たら謎でしかなかった「あの男」について。第10話で韓国にやってきたジョンヒョクの部下たちをひと目で「北から来た」と見抜き、「先輩」としてアドバイスを送る緑ジャージの男ドングである。

 自ら北朝鮮のスパイだと名乗る彼は、じつは『シークレット・ミッション』という映画のキャラクター。ドングを演じたキム・スヒョンは「不時着」の脚本家パク・ジウンの作品に出演していた縁から本作にカメオ出演し、北朝鮮つながりということで映画とまったく同じキャラを演じている。ちなみにキム・スヒョンは「不時着」に続いて人気となったドラマ「サイコだけど大丈夫」では純朴そのものみたいな主人公を演じているので、ドングとのギャップも確かめてみてほしい。

サイコだけど大丈夫
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 ほかにも、「じつはこのシーンって…」「このセリフって…」というオマージュがいくつも「愛の不時着」には眠っている。その元ネタをたどって過去の作品をチェックしてみるのもおもしろいかもしれない。

文=小川智宏

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