コーラに予約2万本、塩が1キロ100万円…常識を超えた新しい「おいしい」が日本を変える!

食・料理

更新日:2020/10/23

1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人
『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』(川内イオ/ポプラ社)

 新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るった2020年、在宅勤務や時差出勤、職場の休廃業などを経験し、働き方や生き方について再考した人は多いだろう。昨日まで当たり前だったことが、明日からは当たり前ではなくなるかもしれない──そんな経験をした今だからこそ、これからの働き方、生き方を考える上でのヒントにしたい本がある。

『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』(川内イオ/ポプラ社)という書籍だ。

 本書の著者は、ジャンルを問わず、規格外の稀な人を追いかけている“稀人ハンター”川内イオ氏。彼がこの書籍で“ハント”=取材したのは、塩、パン、チーズ、おはぎにコーラなど、日本各地で「おいしいもの」をつくる10人だ。取材対象を選んだ基準は、「常識に挑んでいるかどうか」。つまり、この書籍に登場する10人は、いずれも業界において小さな革命を起こしたイノベーターなのだ。

通販専門で3年待ち、小さくはじめて大きく広がるパン屋さん

 京都の福知山駅から車で約40分、甲賀山の麓に小さなパン工房を構える塚本久美さん。彼女は、全国的にめずらしい通販専門のパン工房「HIYORI BROT」を立ち上げたパン職人だ。一般企業への就職を経て、都内有名パン屋さんのスタッフとなった塚本さんは、パンを急速冷凍させる手法を学び、実験室のような厨房での仕事を楽しむ一方で、腕利きの女性の先輩たちが、結婚や出産を機にハードなパン職人の仕事を離れてしまうことを残念に思っていた。

 そこで塚本さんが独立に際して思いついたのが、「冷凍パンの通販に絞れば店舗は必要ないし、結婚しても出産しても続けられる」ということ。しかも、自分が飽きずに続けられるよう、販売するパンは「おまかせセット」のみ。顔が見える生産者の素材を適正価格で買い取って使い、SNSで支持を集めて、この先3年分の予約がすでに埋まっているパン屋さんへと発展した。塚本さんがみずからの手で示したのは、「店舗がないパン屋さん」と、女性に限らずすべてのパン職人の可能性だ。

新開発コーラに予約2万本! 世界にひとつのクラフトコーラ

 レトロな風景が残る新宿区下落合に、平日の昼間から行列ができるお店がある。世界初のクラフトコーラメーカーを謳う「伊良コーラ総本店下落合」だ。

 下落合で生まれ、漢方の職人だった祖父の手伝いなどをして幼少期を過ごした創業者の小林隆英さんは、社会人になったある日、ネット上に、門外不出のはずのコカ・コーラのレシピを発見。スーパーで材料を揃えて煮込んでみたところ、できあがった液体は、たしかにコーラのような味がした。時間を見つけてはコーラをつくるようになった小林さんは、祖父の思い出にヒントを得ながら、ついに「お金払っても飲みたい」と言われるコーラを完成させる。

 会社員をしながら週末、マルシェに出店すると瞬く間に話題になり、独立を決意。実際にコーラをつくっているところが見えるようにしたいと、今年、祖父の工房をリノベーションして店舗をオープンした。コーラを売って稼いだお金で開発した瓶入りの伊良コーラは、販売開始前から2万本の予約が入ったという。小林さんの野望は、「2025年までに、コカ、ペプシ、イヨシと言われる三大ブランドのひとつになる」こと。たったひとりではじめたコーラ革命が、今、大きな注目を集めている。

オーダーメイドで最高価格1キロ100万円、世界に挑む塩をつくる

 四国で一番面積が小さい自治体、高知県田野町にある製塩所「田野屋塩二郎」。ここでつくられる完全天日塩を求めて国内外から料理人が訪ねてくるというが、製塩所を立ち上げた佐藤京二郎さんがこの仕事を選んだのは、なんと消去法の結果。

 子どものころから「一番じゃなきゃ嫌」で、サーフショップの経営を任されていた彼は、30代半ばで「人生で働ける年齢が70歳までと考えて、残りの半分、日本一を目指してなにかやろうと考えたんですよ」。サーフィンが趣味だから、海の近くでできる仕事がいい。マグロの漁師になろうかと思ったが、船は高額だし、青森は寒そうだ。こうして選んだ塩の道では、日本一の職人に土下座をして弟子入りした。

 自分を追い込んで塩に向き合った2年間の修業ののち、全財産を投じて独立、目指したのはやはり“一番”。塩のコンテストで優勝し、今度は「誰にもできないことをしてやろう」と、注文に応じて味や結晶の大きさを変える塩のつくりわけ、つまり「オーダーメイドの塩づくり」をスタートさせる。これまでに佐藤さんがつくった塩の最高価格は、1キロ100万円。次なる挑戦は、グルメ商品開発の世界大会だ。

 この本に登場する10人の履歴はさまざま、扱う食もいろいろだ。けれど共通しているのは、全員がたったひとりから、自由なアイデアと情熱で、市場を切り開いてきたということ。あなたのこれからの暮らしにも、生かせるヒントが見つかるはずだ。

 それぞれの人物のストーリーには、彼らのHPにアクセスできるQRコードもついており、気になった商品をすぐに買うこともできる。彼らのイノベーションを文章や舌で味わいつつ、ぜひ自分の手でも、小さな革命を起こしてほしい。

文=三田ゆき

この記事で紹介した書籍ほか