「今月のプラチナ本」は、宇佐見りん『推し、燃ゆ』

今月のプラチナ本

公開日:2020/11/12

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『推し、燃ゆ』

●あらすじ●

学校生活も家族関係も上手くいかない日々を送る、高校生のあかり。そんな彼女にとって唯一の生きがいは、「推し」であるアイドルグループ「まざま座」のメンバー・上野真幸を追いかけ、彼を“解釈”することだった。そんなある日、その「推し」がファンを殴って炎上したというニュースが飛び込んできて─。『文藝』に掲載されるや否やSNSで話題騒然となった、新進気鋭の著者が放つ衝撃の一作。

うさみ・りん●1999年、静岡県生まれ、神奈川県育ち。現在大学生、21歳。2019年、デビュー作『かか』で第56回文藝賞を受賞し、翌年20年に同作で第33回三島由紀夫賞を最年少で受賞。

『推し、燃ゆ』書影

宇佐見りん
河出書房新社 1400円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

肉の戦慄きにしたがって

精神は肉体によって地に縛りつけられている。悲しみに沈む時も、人は渇き、嘔吐し、尿をこぼす。あかりはそんな肉体を憎む。「自分の肉体をわざと追い詰め削ぎ取ることに躍起になっている」「肉体に負けている感じがする」「肉体に引きずられ、肉体に泣かされるのがくやしかった」「生まれたときから今までずっと、自分の肉が重たくてうっとうしかった」。天にまします「推し」を地から見上げるあかりは、推しが人になった時どうなるのか。ラストであかりの「体」は? 一気読みです。

関口靖彦 本誌編集長。自分が身を捧げてきたのはヘヴィメタルと酒。泥酔して首を振りまくり、脳と肝臓をすり減らしていますがなかなか無くなりません。

 

若いエネルギーの塊のような本

推しの存在があるから、生きられる……。そんな鮮烈な10代を過ごしてこなかったから、彼女の生きにくさや激しい想いを受け止めきれずに、でもぐいぐい引っ張られて読みきった。表面は冷えてるけど、中身はぐつぐつのマグマのようなエネルギー。なにかに激しく心動かされる力ってすごいし、それを受信できる人もアンテナが立っているということだから尊敬する。ちなみに現実の世界では、生きにくさを感じず、なおかつ推しライフを楽しめる10代がいっぱいだといいなと思います。

鎌野静華 先日ベランダの鉢植えにタイムとラベンダーが仲間入り。植えたとたんに寒くなってきてしまい、若干心配ですが、いまのところ元気です。

 

本を閉じて、彼女を思う

推しという言葉の置き換え難さを教えてもらった。これが私のイチオシだとか、推薦する側の人格と不可分な行為は読者にも馴染み深いものだと思うが、この小説が描いているのはもっと信仰に近い、打算のない行為なのだと思った。やがて主人公は「きつさを追い求めている自分を感じ始める」。この物語が迎える結末は必然的で、余分なものを削ぎ落とし続けた彼女の咆哮が聞こえるようだった。彼女自身が「余生」だと言う通り、その後の人生はわからなくていい。是非手に取って。

川戸崇央 声優・櫻井孝宏さんによる本誌連載「ロール・プレイング眼鏡」の副読本的な試みがYouTubeで始まりました。詳しくは編集部のTwitterにて!

 

SNSからも抜け、自分自身の日常を生きる

苦しかった。リアルすぎてしんどかった。私は昨年末、ある海外のグループにすっ転んでは自粛期間中自分を伏せてSNSのコミュニティに参加した。〈半分フィクションの自分でかかわる世界は優しかった〉まさにそれ。つぶやく度にハートが大量につく。人と隔離されるなか、そこは認めてくれる場所だった。だから現実に直面し、重たい肉を持ち上げ、自分を生きようとする主人公の姿にガツンときた。誰かのファンでSNSを活用している方なら、血が出そうなくらい胸に痛く刺さります。

村井有紀子 推しはいれども海外のアーティストなので、ライブが開催され気軽に出国できる日を願っています。そして推しのおかげで語学勉強に励む自分が怖い。

 

生きる手立てとしての推し

推しがいなくてもわかるかなぁと読みはじめ、推しの解散ライブの「あたしから背骨を、奪わないでくれ」で涙腺決壊、べろべろに泣いて読み終えた。めっちゃわかる。「自分で自分を支配するのは気力がいる」から、自律的に生きるのがうまくいかなくなったとき、「生きる手立て」として人は、その背骨をどこか―酒、仕事、恋愛、あるいは推しなどに預けるのかもしれない。しかし預けっぱなしにはできない。うっとおしく重たい肉体を引き受け、生きていかんとする少女の強さに痺れる‼

西條弓子 つねに背骨をどこかに預けて歪みがちなので、整体でいつも叱られる。でも歪み方こそ人生じゃないかと開き直っている(から治らない)。

 

一方的な関係だっていい

「生きているだけで皺寄せがくる」と感じるほど、日常生活が困難なあかりは「推しを推すときだけあたしは重さから逃れられる」という。彼女の想いに推しが応えることはないし、推すことで現実が優しくなることもない。なのにどうして。家やバイト先で同じような疑問を投げかけられ、あかりはこう考える。「一定のへだたりのある場所で誰かの存在を感じ続けられることが、安らぎを与えてくれる」。誰かの存在だけを生きる理由にするのは危ういけれど、それでも「生きてて偉い」と言いたい。

三村遼子 ある人への憧れと距離についての表現として、東京事変の『スーパースター』を思い出しました。7月の配信ライブのアレンジもよかった……。

 

「へだたり分の優しさ」にある安らぎ

「推すことはあたしの生きる手立てだった」。学校にも家庭にも馴染めず、生きづらさを抱えながらも日々を送るあかりは、推しの存在が生きる原動力になっている。推しのために苦手なバイトにも精を出し、心血を注ぐあかりの姿に、そこはかとない危うさを感じながらも、そこに存在している救いに思わず共感してしまった。推しへの想いは一方通行ではあるけれど、だからこそお互いの関係性が壊れることもない。「へだたり分の優しさ」は確かに私たちに安らぎを与えてくれるのだ。

前田 萌 私の推し(2次元)は死んでしまうことが多い。あの喪失感たるや……。生きているだけで推しは尊い。後悔しないよう推せる内に推し続けたいです。

 

祈るように推し、這いつくばりながら生きる

どこにも居場所を見つけられないあかりにとって、「推し」の存在は世界と繋がっていられる唯一の手段。かといってその「推し」は、自分に対して特別何かをしてくれるわけではない。そこに存在する感情は、ただの熱烈な好意というより「祈り」に近いのだろう。ままならぬ毎日の中で発せられる、切実な魂の叫び。生きづらい世の中で祈るように推し、何とか命を繋ぐ彼女の姿は痛々しくて、脆くて、どうしようもなく人間的だ。「推し」がいない人にもぜひ読んでみてほしい一作。

井上佳那子 推しがいない人生を送ってきた私は、憂き世を乗り切るヒントを求め禅寺に通い始めました。しかし身体が固くて座禅が組めず。道のりは長そうです。

 

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