独学はなぜ続かない? 自分の怠け心に勝つための具体的メソッドを紹介

ビジネス

公開日:2020/11/4

『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』(読書猿/ダイヤモンド社)

 社会人になってからの学びは、なかなか続かない。「これからの時代、英語は必須」「文系でもプログラミングを学んでおいたほうがいい」「休日もビジネス書を読んで自己啓発」――その気持ちはよくわかる。会社で目の前の仕事をこなすだけでなく、自分なりに知識やスキルをインプットする機会があってこそ、同期や先輩とは違うアウトプットが出せるというものだろう。IT企業に勤める文系出身の筆者も、先日プログラミングの勉強を始めたばかり。とはいえ、やはり楽々と順調に進んでいるわけではない。学校の勉強と違って強制力がないため、継続がむずかしいのだ。
 
「○○を学ぼう!」と決意した人は、多かれ少なかれ同じような状況に陥るのではないだろうか。『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』(読書猿/ダイヤモンド社)は、そんな独学において悩める社会人に読んでほしい。実践的なテクニックはもちろんのこと、「なぜ学ぶのか?」「なぜ続かないのか?」といった本質的なテーマにも多くページを割き、純粋に読み物としてもおもしろい1冊だ。

独学はなぜ続かない? 二重過程説

 独学が続かない原因を、著者は「二重過程説」を用いて説明する。少しややこしいが、本書の背骨となる理論なので紹介したい。二重過程説とは、私たちの認知や行動がふたつのシステムから構築されているという理論だ。

 著者によれば、システム1は、職人のような思考回路。人間が進化の過程で獲得してきたもので、大抵の物事に対して時間や認知資源をほとんど使わず瞬間的に判断していく。

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 これに対して、システム2は、のろまで理屈っぽい新人だという。仮説を立てたり新しいことに対応したりできる分、時間もかかるし認知資源も消費する。システム1は環境に依存しコントロールしにくいものなので、しばしばシステム2に打ち勝ってしまう。ダイエットや独学が続かない原因はこれだという。システム2では「やらなくちゃ」と思っていても、システム1で目の前の高カロリーな食べ物を選択してしまうし、生命維持に直結しない勉強を遠ざけてしまう。

 では、私たちはどうすればいいのだろう? 二重過程説に、そのためのヒントが隠れている。独学を続けるためには、環境に反応するシステム1をハックすればいい。システム2による理性と意志の力に頼らず、システム1が自然と勉強に向くよう仕向けるのだ。次からは、そのための具体的テクニックを見ていこう。

重い腰を上げる「2ミニッツ・スターター」

 なかなか始められない重い腰を上げる方法が、「2ミニッツ・スターター」。やり方は簡単だ。まず、タイマーを2分にセットする。タイマーをスタートさせたら、即座に勉強を開始。タイマーが鳴ったら作業をやめ、その後、「①続ける ②違う作業をやる ③やめる」の3つから選ぶ。自発的な勉強は開始するまでが大変だから、「2分」とハードルを下げて始めれば、あとは案外続いてしまうのだ。

怠けることに失敗する「逆説プランニング」

 計画を立てても失敗してしまうという人におすすめしたいのが「逆説プランニング」。まず、実現したいことを目標にする。これは、難易度が高い「無理めの目標」がいいという。そして、「無理めの目標」に対して最小単位を決め、末尾に「~しない」とつけた、“逆説目標”を立てる(例:「1万字書く」→「1文字も書かない」)。最後に、この目標を失敗する、というもの。そう、計画通りにいかないことで目標を達成するのだ。人間の天邪鬼な性質を逆手に取った戦略で、ハマる人にはハマりそう。

 本書では他にも、壮大な独学の道を一歩一歩進むための「1/100プランニング」や、制限された時間を効率よく使う「グレー時間クレンジング」など55の技法を紹介している。約800ページと大ボリュームの本書だが、何も頭から全ページを読む必要はない。巻末には「困りごと索引」と題した独学の悩み(「ついつい先延ばしにしてしまうなら」「理解力がなくて辛かったら」など)から検索できるページがあり、今の状態やあなたの悩みに合わせて使うことも可能だ。「大全」というだけあり、独学者のあらゆる悩みに答えてくれるだろう。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7