推しのSNSアカウントの“中の人”になっちゃった!? 顔がよすぎる先輩とオタク女子の秘密の関係…『顔だけじゃ好きになりません』

マンガ

公開日:2020/12/26

顔だけじゃ好きになりません
『顔だけじゃ好きになりません』(安斎かりん/白泉社)

 なんだかんだいって、「顔が好き」というのは最強のファクターだ。眺めているだけで癒される。存在するだけですべてを許してしまう、自分好みの顔。このSNS時代、多くの人が日々を生き抜く糧として、そんな“推し”をフォローする。『顔だけじゃ好きになりません』(安斎かりん/白泉社)の主人公・知見才南(ちけん・さな)もそう。同じ高校の先輩(らしい)宇郷奏人(うごう・かなと)の顔が好きすぎて、SNSでネットの海を検索する日々だ。

 らしい、というのは本人がSNSをやっておらず、情報が少なすぎるから。あまりに顔が整いすぎていて、美容院のカットモデルや雑誌のストリートスナップに載った姿が拡散され、本人不在のままインフルエンサー化してしまったという、稀有な存在なのだ。その奏人と現実に知り合ってしまった才南が、“中の人”として彼のかわりにSNSを更新することになる……というのがあらすじなのだが、設定の今っぽさが作品のリアリティを強化していて「すげえ!」と読みながら声をあげてしまった。

 知り合うきっかけは、高校の公式アカウントがアップした写真に、奏人の姿が映っているのを見た才南が「応援しています!」とメッセージしたこと。実は奏人、去年も今年も授業をサボりすぎて、留年したあげくに退学の危機。ところが奏人の人気に目をつけた校長が、公式アカウントのフォロワー数を10万人に増やし、来年の生徒数を増やすことができたら退学は撤回してやると交渉してきたのだ。

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 というわけで、才南のメッセージを読んだのも返事をしてきたのも実は奏人だったわけなのだが……。推しの顔が突然リアルに現出して混乱と狂喜をくりかえす才南もかわいいが、そんな彼女に奏人が言う「俺 生きてんの。画面の向こうの像じゃない」というセリフが、すごくいい。そして、顔がいいというだけで騒がれ、期待され、幻滅され、「お前は顔だけ」と言われ続けてきた人生に傷ついている奏人の姿に、SNSの危険性を浮き彫りにしつつ「こじれてる先輩、生きてるって感じがしてめちゃくちゃ尊い!」とあくまでオタクとしての姿勢を失わない才南も、最高だ。

 だって「見た目なんて関係ない」と断言してしまうのは、嘘だから。好きで推してた顔が目の前にあれば、誰だって興奮する。でもじゃあ、顔がいいだけで全部許せるかといえばそんなわけもないということは、近年のさまざまな炎上騒ぎを見れば明らかだ。見た目も、中身も、どっちも個性。二次元の像ではなく、生きた人として認識して、なお「好き!」と言える才南だからこそ、奏人はパートナーとして自分のかわりにSNSを更新する“中の人”に選んだのである。その前段階として、数あるメッセージの中から才南を選んだ理由も、とても良いのだが……。

 奏人の人気が増すほど、“中の人”の正体がバレれば炎上しアンチが湧くこと必至なので、その関係は秘密。そんななか、虚像と実像の境界を越えて接近していく2人の関係が、尊くてたまらない。

文=立花もも