体と心の「性」について考える 子ども自身が性教育について考えるための手引書

出産・子育て

公開日:2020/12/29

『サッコ先生と!からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』(高橋幸子/リトルモア)

 小学校4~6年生ぐらいの思春期の入り口に立った子どもをもつ親にとって、子どもへの性教育は頭を悩ませる問題だろう。インターネット上には性にまつわる情報が氾濫していて子どもでも簡単にアクセスできるし、LGBTなどかつては表面に出てこなかったテーマも今は避けられない。だが、学校での性教育は昔も今も変わらず、役に立っているかどうか実感がない…というのが実情だろう。
 
 中学校の学習指導要領では3年生でコンドームについて教えることになっているが、同時に「受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わない」とも定められている。ようするに、セックスは教えずにコンドームを教えるという、ちぐはぐな状態なのだ。
 
 そんな子どもへの性教育に悩む親にとって大きな助けになりそうなのが、『サッコ先生と!からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』(高橋幸子/リトルモア)である。著者は産婦人科医だが、性教育をしたいという思いで産婦人科医の道に進み、以後20年以上にわたって小学生から大学生まで、それぞれの年代の性教育にたずさわってきた、いわば性教育のエキスパートだ。

子どもと「性の話」に触れるきっかけに

 ところで、先に「性教育に悩む親にとって助けとなる本」と記したが、じつは本書は著者が小学校に赴いて実際に子どもたちに向けて行っている性教育の講演をベースにしたもので、メインの対象読者は“子どもたち自身”である。本書の冒頭には著者からのメッセージがこう記されている。

“まずは大人のいないところで、ひとりでじっくり、好きなように読んでみてね。だれのことも気にせずに、あなた自身の「体」と「心」に向き合ってみましょう”

 つまり、子どもが性について自分で考えられるようにするための本なのだ。

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 その導入部として、本書ではまず「おへそ」の話から入っている。誰の体にもあるへその話から哺乳類の胎児の話につなげ、そこから「赤ちゃんが生まれる3つの科学」、「思春期の体の変化」、「目には見えない心の話」と、子どもたちが段階的に性を理解するための手助けをしてくれるのである。

 とくに、「心の話」にある、性には「体の性」、「心の性」、「好きになる人の性」、「表現する性」という4つの側面があり、それは人によって違っていいという話は、現代の性教育において欠かせない大事なテーマだろう。そして、本書では、これらのことがすべて極めてわかりやすい言葉で、かつ科学的に冷静に語られている。

 さらに、本書は子どものための実用書という面も強く、ところどころに子ども自身がチャレンジしたり、書き込んだりするMISSION(ミッション)も用意されている。たとえば、性被害にあったときの対処として、「信頼できる大人を3人思い浮かべてみよう」というMISSIONがあり、実際にその3人の大人の名前・電話・住所を書きこむスペースが用意されているのだ。

 この「信頼できる大人」の「3人」という数も、とてもよく考えられている。もし子どもに、1人、あるいは2人、大人の名前を書けと言ったら、大半は父親や母親の名前を書くだけだろう。しかし、子どもの性被害は家庭内で起きることもある。だからこそ、家庭の外に“信頼できる第三の大人”を見つけておこうということなのだ。

 このように本書では、子どもが親に相談しづらかったり、親が子どもに直接ではなかなか言いづらいような、難しい問題や微妙な問題についても、きめ細やかな心配りとともに、実用的な形でしっかりと触れられている。そういう意味で、子どもたちはもちろんのこと、子どもをもつ親にも、またこれから親になるかもしれない人にも読んでみてほしい。

文=奈落一騎/バーネット