モブキャラで空気なのになぜかヒロインにだけ見つかってしまう…! モブ男子は主人公になれるのか?

マンガ

更新日:2021/1/24

『久保さんは僕を許さない』(雪森寧々/集英社)
『久保さんは僕を許さない』(雪森寧々/集英社)

「ヒロイン級美少女」が恋をしたのは、体がぶつかるまで近くに来ても気づかれない「モブ男子」? 思春期スイートコメディ『久保さんは僕を許さない』(雪森寧々/集英社)が今、アツい。

 白石純太は存在感ゼロで、クラスメイトたちが文字通り“見つけられない”。まるでモブキャラのように紛れて消えているのだ(ミステリーというわけではない)。ところが久保渚咲だけは、なぜか彼を目ざとく見つける。…そして何かと話しかけ、絡んでくる。

 デザイン(ルックス)もモブ、中身もフツメンな白石に久保さんが興味をもつ理由とは…? 本作はクエスチョンマークとニヤニヤが止まらない、「ラブコメの2歩手前」コミックだ。

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久保さんになぜかちょっかいを出されるモブキャラ特性の純太

 純太は今日もそこにいた。だが他人にはほぼ気づかれない。「空気のようで、存在を周りに認知させるのが難しい」ことを自認している。

・集合写真に写っていないと思われて、休んだかのように合成される
・自分が座っているのに気づかず上から座られる
・皆勤賞をスルーされる

 このような存在感ゼロエピソードにこと欠かない純太は、高校生らしい青春を謳歌するどころか、青春のステージにすら上がれない。「自分はモブか、それ以下の存在、透明人間?」……そう諦め、感情をオフにしていた彼の前に、久保さんが現れた。

 美人で勉強もできて運動も得意、非の打ちどころのないヒロイン、久保さん。彼女はなぜか100パー純太を見つけることができる。最初は彼をからかうように、ちょっかいをかけてくる。

 心身ともに距離を一気に詰めてくる彼女に戸惑う純太は、いつしか久保さんに学校外でも見つけられる(出会う)ようになる。そして2人は休みの日にいっしょに出かけることに……。

 こんな、まさに青春のステージど真ん中のシチュエーションで、自分が「モブではない主役」になっていると、すぐには気づかないのが純太だ。それでもさすがの彼も久保さんを意識していく(驚くほどゆっくりと)。

 学校で熱を出した久保さんを、保健室へ送り届けたエピソードで純太はこう思い、つぶやく。

今日の僕はなんというか全然似合わないけどそんなのわかっているけれど

…なんか主人公みたい…

 さてグイグイと来る彼女の方は?

ヒロインもまた恋愛初心者。“気になる”が“恋”になる物語

 純太の前では余裕たっぷりでマイペース。単に「やりたいことをただやっている」ように見える久保さん。ただ純太がいない所では…? この描写はぜひ作品を読んで確かめてもらいたい。とにかくかわいらしいのだ。まさにスイートな絵柄と相まって最高なのである。

 正直「これってはじめから完全に好きだったでしょ! でもなんでモブな純太が久保さんにとって特別な存在なの?」読み始めると、誰もがそうツッコむだろう。本稿のライターもそうだった。

 これは3巻まででは明らかになっていない。ただその答え、久保さんの気持ちは、しっかりと用意されている。気を抜かずに最初からじっくり読んでいってもらいたい。

“気になる”という将棋の駒は、相手陣地に入ると突然“恋”に成る。

 ストーリー展開を、担当・R氏の渾身のポエムに対抗して表現してみた。訳がわからない方は、ぜひ単行本の表紙カバーをとってみるべし(上手くないのにえらそうですみません…)。

『久保さんは僕を許さない』の「僕」には“モブ”とルビが振ってある。つまり本作は純太が“モブであること”を許さないヒロインの物語だ。

 記号的なモブキャラデザインを意図的に使い、描きこんだ美少女との対比をみせつつ、丁寧に高校生の青春を読ませてくれる本作。主人公が主人公の自覚をもつまで、恋愛未満な2人の仲をゆるく楽しんでみてほしい。

文=古林恭

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