これが韓国エンタメの底力! ハリウッド級スリルと濃厚なキャラ描写で魅せる韓国ドラマ『Sweet Home -俺と世界の絶望-』
公開日:2021/2/13
昨年12月にNetflixで全世界配信がスタートした韓国ドラマ『Sweet Home -俺と世界の絶望-』。ある原因により誕生した怪物と古アパートに籠城する人々との生き残りをかけた壮絶な戦いを描いたこの作品を観て、「韓国ドラマはついにここまで来たか」と思った。
ハリウッド顔負けの特殊効果に豪華なキャスト陣、そして息もつかせぬ怒涛のストーリーテリング。全10話、時間にして8時間強。一気に観てしまって、夢にあのハルクみたいな筋肉オバケやビローンと数メートルの舌を伸ばして生き血を吸う怪物が出てきたりしたのだが、破格の映像スペクタクルはそれぐらい強烈な印象を残す。制作費は1話につき約30億ウォン(約2億8500万円)といわれている超大作だ。
簡単に説明すると『Sweet Home』は韓国のウェブトゥーン(WEBマンガ)を原作としたシリーズだ。主人公は引きこもりの高校生チャ・ヒョンス。交通事故で家族全員を亡くした彼が、ひとり暮らしをするために引っ越してきたアパート「グリーンホーム」が物語の舞台となる。
何やら不穏な空気が立ち込め、クセのある人間が多数暮らす古アパートで、とくに生きる希望もなく、自殺を決意したりそれを諦めたりしながら毎日を生きるヒョンスだが、ある日突然、彼をとてつもない恐怖が襲う。それぞれに特殊能力を持った怪物が次々と襲ってくるなか、孤立した「グリーンホーム」の住人たちはときに敵対し、ときに協力しながらなんとか生き延びようとする……というのがドラマのあらすじである。
それだけだとよくあるモンスターパニックものみたいだし、実際、仲間内に裏切り者がいるのでは? と思わせる演出だったり、戦わせるとむちゃくちゃ強い女性がいたり、極限状態での人間の本性が生々しく描かれていたり、主人公が否応無しに残酷な運命に巻き込まれていったり、先に書いたとおり莫大な制作費をかけたCGや怪物の特殊メイクも見どころのひとつなのだが、もうひとつ、主人公ヒョンスをはじめ濃すぎる登場人物たちのキャラクターもこの作品の大きな魅力である。
ヒョンスを演じているソン・ガンは、2017年にテレビドラマ『カノジョは噓を愛しすぎてる』でデビュー、最近では2019年の『恋するアプリ Love Alarm』でファン・ソノ役を演じて注目を集めた。この『Sweet Home』では現在26歳の彼が17歳の高校生を演じているわけだが、繊細な人物像と複雑な設定をしっかり噛み砕いて好演している。
そんな彼の脇を固めるキャスト陣も個性豊かだ。鍛え抜かれた肉体で怪物と渡り合う元消防士のソ・イギョンを演じるイ・シヨン(『花より男子~Boys Over Flowers』『イタズラなKiss~Playful Kiss』)、ベーシストでもある戦うサブカル系女子ユン・ジスを演じるパク・ギュヨン(『サイコだけど大丈夫』でのジュリ役がハマっていた)といったヒロイン勢。武器を作って主人公たちをサポートする車椅子のメカニック、ハン・ドゥシクを演じるキム・サンホや、余命いくばくもない身ながらも常に優しい笑顔を浮かべる老人アン・ギルソプを演じるキム・ガプスといったベテラン勢。住人たちのリーダー的存在となる医大生イ・ウニョクを演じるイ・ドヒョンや、見るからに怪しい顔に傷をもつ謎の男ピョン・サンウクを演じるイ・ジヌク、日本刀を使うクリスチャンの国語教師チョン・ジェホンをシリアスに熱演しているキム・ナムヒといった若手〜中堅役者陣。それぞれにいわくありげな登場人物たちの群像劇としても、この『Sweet Home』はとても味わい深い。こういう作品なので登場人物の何人かは劇中で死ぬことになるのだが、いつの間にか感情移入してしまっていて、ある人物の死のシーンには涙が溢れて止まらなかった。
とはいえ、ウェブトゥーン原作ということで、登場人物のキャラクター造形はユニーク(日本刀を振るって怪物と戦う教師とか)で、怪物との戦いが本筋ではあるので、この多彩な登場人物陣を全10話のなかで掘り下げきれているかというとそうは言い切れないところもある。人物描写についてはスピンオフがいくらでも作れそうなくらい余白を残しているのだが、それでも、俳優たちのちょっとした仕草や視線の動き、喋り方などからは、全員が徹底的に役を作り込んで撮影に臨んだのであろうことが伝わってくる。画面には見えないところに、リアルで人間的なストーリーが広がっていそうな予感が、終始画面から溢れているのである。とりわけ主人公のヒョンスは、性格的にほとんど自己主張もしないし、主人公らしいかっこいいセリフなどは皆無なのだが、それでも観終わる頃にはこいつ以外に主人公はいないという気持ちにさせる。名演である。
とにかくスピーディに展開するドラマで説明シーンも少ないので、ちょっと画面から目を離すと「あれ、これどうしてこうなったんだっけ?」と置いていかれるという意味ではなかなか集中力を要求されるドラマだが、ぜひ通して観てほしい。そして観終わったあと、消化しきれない何かが胸の中に残る感じを味わってほしい。一応の物語の結末はあるのだが、大団円感を味わうというよりは、「ここまでやってまだプロローグ!?」というようないい意味での衝撃が最後に襲ってくる。『Sweet Home』の世界はドラマが終わってもまったく閉じてはいないのだ。シーズン2、今から待ち望んでいる。
文=小川智宏
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