「無限列車」に「ガンダム像」……アニメ×鉄道で地域おこし! 単なるファンサービスにとどまらない空想と現実のコラボレーション

アニメ

公開日:2021/2/23

アニメと鉄道ビジネス キャラクターが地域と鉄道を進化させる
『アニメと鉄道ビジネス キャラクターが地域と鉄道を進化させる』(栗原景/交通新聞社)

 2020年、最も話題となった劇場アニメといえば『劇場版鬼滅の刃 無限列車編』だろうか。社会現象ともいえるほどの人気で、それにあやかった衣料品や菓子および飲料などとのコラボレーションも目立った。その中でも一際注目したいのは、劇中の「無限列車」を実際にJR東日本とJR九州がそれぞれ、蒸気機関車(SL)で再現し運行したことだ。アニメと鉄道はどちらも子供に親しまれており、小生のような「オタク」と呼ばれる大人たちにも、双方を愛する者は少なくない。

『アニメと鉄道ビジネス キャラクターが地域と鉄道を進化させる』(栗原景/交通新聞社)は今までに各鉄道会社が取り組んできた、アニメとのコラボレーション企画の成り立ちを掘り下げて紹介。それは「地域おこし」にもつながり、地方経済の起爆剤とも考えられ、ただのファンサービスの枠に収まらない。

 アニメと鉄道の関係といえば、近年に特筆すべき作品があり、本書でもじっくりとその誕生経緯について解説されている。それが2018年1月から翌年6月まで1年半にわたり放映された『新幹線変形ロボ シンカリオン』だ。JR東日本の担当者は本書に「新幹線は、流行り・廃りがあるものではなく、長期間お客様に親しまれるものです。その新幹線をモチーフにして、本気で作ったキャラクターならば、長期的にキャラクター展開できるという期待がありました」と答えている。

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 当時、鉄道事業は堅調だったが、少子化時代においていずれ旅客輸送量も頭打ちになることが予測され、鉄道以外の事業収入を増やしていく必要があった。そこで、新幹線が大好きな未就学児童から長年アニメや鉄道に親しんだ大人をも巻き込む「クオリティーの高いキャラクターを展開すれば」事業収入にも寄与できるうえ、こうして正義の新幹線ロボットに親しんだ子供たちは将来にわたり、新幹線に好印象を持ち続けてくれるとの期待が込められていた。小生も実に納得で、今後も新幹線を応援したくなる。

 本書は更にアニメとの関係を深めた鉄道会社として「西武鉄道」をじっくりと考察している。元々、沿線にアニメーション関連会社が多く、特に練馬区の「東映アニメーション」や杉並区の「サンライズ」は大きな存在である。ちなみに、マンガの聖地の一つ「トキワ荘ミュージアム」も沿線にあるのは面白い偶然だ。

 2007年10月、西武鉄道は「一般社団法人日本動画協会」と提携し「アニメのふるさと」プロジェクトをスタート。沿線に制作スタジオが多い特徴を活かし、沿線一帯のイメージと価値を高め、最終的に定住人口の増加につなげるのが目的だ。鉄道会社は乗客がいなくては事業が成り立たないので、沿線の不動産開発を行うのは、経営の基礎である。

 まずは沿線の環境保護推進活動をアニメキャラを用いて紹介していたが、やがて杉並区から西武新宿線上井草駅に「ガンダム像」の設置の申し入れがあった。上井草は「機動戦士ガンダム」シリーズを制作したサンライズのお膝元であり、なおかつ周辺商店街からも駅前シンボルにと強い後押しがあった。西武側も渡りに船の話でスムーズに交渉が進み、2008年3月23日には富野由悠季総監督を招いての除幕式も開催。駅の発車メロディも主題歌「翔べ!ガンダム」に変わり、町の日常に浸透していった。

 1970年代~80年代にアニメの洗礼を受けて育った年代は、今や社会を取り仕切る役職に就いている人も多く、企業も行政もアニメは日本の文化と認識している層が増えているはず。かつてアニメは「子供だまし」と見下された時代もあったが、そんな偏見はかなり薄れたと思う。日常の足である鉄道と、夢の産物であるアニメ、今後の相乗効果が楽しみである。

文=犬山しんのすけ