「新・臓器移植法(ドナー法)」は善か、悪か。臓器提供が“義務”となった時代にドナーと受給者が抱く苦悩

マンガ

公開日:2021/4/13

ドナー法-ある臓器移植コーディネーターの記録-
『ドナー法-ある臓器移植コーディネーターの記録-』(いなずまたかし/新潮社)

 医療ドラマではよく、臓器移植の提供者(ドナー)が見つかり患者の命が助かるまでのシーンが淡々と描かれる。しかしそれはドラマの中の話。JOT(日本臓器移植ネットワーク)の公表では、ネットワークに登録している日本人約1万4000人のうち、年間で臓器移植を受けられるのは400人ほど。割合にして約2~3%だという。これは臓器移植数が世界トップのスペインや、アメリカと比べるとかなり少ないとのこと。ゆえに日本で臓器移植が行なわれるのは奇跡に近いとまで言われている。

『ドナー法-ある臓器移植コーディネーターの記録-』(いなずまたかし/新潮社)は、そんな臓器移植をテーマにした漫画だ。主人公の立浪煌は、臓器移植コーディネーターとして臓器をめぐるさまざまなドラマに立ち会っていく。

■臓器提供が“義務”となった日本を舞台に繰り広げられる人々の苦悩と葛藤

 舞台は、大規模な医療改革が行なわれてから15年経った日本。さまざまな医療制度が見直されるなか、最も大きな改革となったのが「臓器移植法」の改正である。

advertisement

 大きな改革と言われる所以は、改正された「新・臓器移植法(ドナー法)」の内容にある。従来、死亡時の臓器提供は個人または家族の意志が尊重されていたが、新法からは全国民の義務へと変更されてしまったのである。それはつまり、脳死や心停止が確定した患者は強制的にドナー登録され、臓器は自身や家族の意志に関係なく受給者へ提供されるということだ。ちなみに臓器移植は時間との勝負であるため、脳死後すぐに摘出手術が行なわれる。

 この法改正、家族にとっては苦痛でしかない。なぜなら、大切な家族の今後を決められないどころか、別れを惜しむ時間さえ与えられないからだ。しかも故意にドナーの臓器の搬送を妨害しようとすると、刑法95条「公務執行妨害」とみなされる始末。作中では不慮の事故で突然娘を失った家族が、ドナー法を「イカれた法律」と罵倒するが、そう思ってしまうのも至極当然なのかもしれない。

 また受給者は、臓器移植待機者として登録されてはいるものの、臓器提供が確約されているわけではない。そのため「本当に自分は移植手術が受けられるのか……」という不安を抱えながら日々を過ごしている。また移植後も、定期的な通院と免疫抑制剤の服用が欠かせない。通院拒否や飲み忘れは命に関わるため、生涯にわたって注意を払う必要があるのだ。

 本作はこれらをベースに、ドナーと受給者両方の苦悩と葛藤がリアルに描かれていく。彼らが抱く苦悩や葛藤とは。立浪は臓器移植コーディネーターとしてどのように介入するのか。それは本作を実際に手にして確認していただきたい。

 本作に登場する法律や時代設定は現代より進んでおり、SFチックな描写も少なくない。ただ、命や臓器移植に関するメッセージ性は、現代にも通ずるものがある。本作を読了したら、ぜひ一度作中の出来事を自分や家族のこととして想像してみてほしい。きっと命そのものやいま自分の周りにいる人の大切さを改めて実感できるはずだから。

文=トヤカン

あわせて読みたい