大ヒット『ゆるキャン△』の魅力とは? 最新12巻で描かれる、野クルの千明ら“3人の珍道中”

マンガ

公開日:2021/4/12

ゆるキャン△ 12
『ゆるキャン△』 12巻(あfろ/芳文社)

 去年(2020年)の流行語大賞にお笑い芸人・ヒロシの「ソロキャンプ」がノミネート。さらにはコロナ禍でのアウトドアレジャーとして、すっかり世間に定着した感のある「キャンプ」。アニメ化も実写化もされているコミック『ゆるキャン△』(あfろ/芳文社)は、そんなキャンプブームの立役者といえるヒット作だ。では本作のどこに、多くの人を惹きつけるポイントがあるのだろうか。

 まずひとつは、随所に挟み込まれるキャンプ豆知識の数々。主人公の各務原(かがみはら)なでしこは、山で遭難しかけたところを、もうひとりの主人公でソロキャンガールの志摩リンに助けられ、キャンプに興味を持つようになったというキャンプ初心者。ゆえに、そんな彼女が仲間とともに、キャンプにまつわるアレコレを学ぶ……というのが、本作の縦軸のひとつだ。

 いわばノウハウもの的な要素が本作の面白さに繋がっているのだが、加えて「キャンプ」を軸に広がっていくキャラクター同士の関係も、この作品の魅力のように思う。

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 例えば、知らない人でもすぐに仲良くなってしまうほど社交的ななでしこに対して、リンはキャンプ場でひとり静かに過ごすのが好きというクールな性格。性格的にはまったく正反対のふたりが、少しずつ距離を近づけていく様子が描かれるのだが、この「少しずつ」というところが本作の肝になっている。キャンプで訪れる美しい景色とともに、確実に刻まれる時間。そのゆったりとした流れを想像できるからこそ、なでしこたちが育む絆が確かなものに感じられる。こまやかな心の機敏を丁寧に拾い上げていく演出こそが、『ゆるキャン△』が支持されるポイントだろう。

 さて、そんな『ゆるキャン△』の最新刊となるこの第12巻でメインを務めるのは、野クル(野外活動サークル)の部長・大垣千明と太眉八重歯のホラ吹き娘・犬山あおい、リンの友人・斉藤恵那の3人。前巻では、なでしことリン、そしてなでしこの幼なじみ・土岐綾乃による大井川キャンプの様子が描かれたが、そんななでしこたちに対抗して(!?)、千明たちは山梨北部にある瑞牆山(みずがきやま)キャンプ場を目指すことになる。

 なでしこたちの大井川キャンプが、各地の名所をめぐりながら風景を楽しむのがメインだったのに対して、こちらは途中のルート選択を間違って、急な山道をカートを引きずり登るハメに陥ったり、バスが来るまでの10分であわてて温泉に浸かったり……。ドタバタだらけの珍道中は、いかにもこの3人らしい。

 加えて今回の旅は、学校で薪割りをしながら「回想」形式で語られるというところも新趣向。本当はキャンプに同行しなかった恵那の愛犬・ちくわが勝手に登場したり、はたまたなでしこがワイプから話に割り込もうとしたりと、やりたい放題。メタっぽい仕掛けから来る笑いの濃度はもしかすると、これまでの『ゆるキャン△』で一番高いかもしれない。

 もちろん途中からは、大酒飲みの鳥羽先生も千明たちに合流し、『ゆるキャン△』名物のキャンプグルメもたっぷりと紹介。読んでいると自然に「今度、これ作ってみようかな……」と思わされてしまう。ラストには、野クルの今後が示唆されるような展開もチラリと登場。まったりと積み重ねられてきた、なでしこたちの楽しいアウトドアライフは、まだまだ終わりそうにない。

文=宮 昌太朗

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