好きな子を盗撮していた陰キャ大学生は、陽キャたちと出会ってどう変わっていく? 『スポットライト』が描く、青春の痛み

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更新日:2021/4/23

スポットライト
『スポットライト』(三浦風/講談社)

 学生時代のことを思い出すと、とても胸が痛む。当時、その言葉自体は存在していなかったけれど、確実にぼくは“スクールカースト”の底辺にいた。俯きながら登校し、教室の隅っこでクラスメイトたちが騒いでいる様子をうかがう。大きな笑い声を上げているのは、いつだってカーストのトップにいるような生徒たちだ。男も女も見た目がよく、派手で明るくて、まるでこの世のすべてを手にしているかのように振る舞う人たち。彼らを横目に、ぼくは常に帰りのホームルームまでの時間を計算していた。

 どうしてこんな暗いエピソードを書いたのか。それは、『スポットライト』(三浦風/講談社)を読んだからだ。本作は所謂“陰キャ”の男子大学生を主人公にした青春ストーリーであり、彼の目線でキラキラと輝く陽キャたちが描かれていく。この主人公に猛烈に感情移入してしまったのだ。

 彼の名は斎藤恭平。カメラが好きで、いつだって卑屈な彼は、自他ともに認める“モブ”的な立ち位置にいる男である。

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 そんな斎藤がある日、ミスコンの専属カメラマンに抜擢されてしまう。

 ミスコンといえば、容姿端麗な男女が集まるイベント。いや、容姿だけではない。スポーツを頑張っていたり、優秀な成績を収めていたり、課外活動に精を出していたりと、内面もとても優れた人たちの集まりだ。斎藤のような“その他大勢”よりも何歩も秀でたものを持つ彼らは、つまり陽キャの集団である。まるで対極に位置する存在と関わることになってしまった斎藤は、一体どうなってしまうのか。本作ではその様子を丁寧に追いかけていく。

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 斎藤には入学当初から想いを寄せていた人がいる。それがミスコンに出場する小川あやめだ。見た目は完璧で、さらにコミュ力も抜群な彼女に惹かれている斎藤は、“身分”の違いから、想いを告げることなどできない。じゃあ、どうするのか。そこで斎藤が選んだのは、小川をこっそり陰から撮影することだった。日常生活で見られる何気ない表情をカメラに収める。それはいわゆる「盗撮」だが、斎藤はカメラ越しに小川の笑顔が眺められるだけで満足だった。

 想いを伝える勇気はない。けれど、彼女のことを独り占めしたい。そんな願望が盗撮という行為につながったのだろう。ところが、斎藤の行為はやがて明るみに出て、小川にも知られてしまうこととなる。

“すげー不快。謝って”

スポットライト

 好きな人に全否定され、言い訳すら聞いてもらえない。決して不快にさせるつもりはなかった。それなのに……。

 この出来事を機に、斎藤にちょっとずつ変化が訪れていく。いつまでもウジウジしていても意味がない。相変わらずの陰キャだけれど、小川にわかってもらうため、自分を変えようとしていくのだ。

 そして、その過程で斎藤は、小川以外にもさまざまな陽キャと交流を深めていく。そこで見えてきたものとは――。

 第1巻では斎藤と小川の関係が捻れていくさまが描かれるが、第2巻では物語がさらなるうねりを見せる。小川以外のミスコン出場者と接するうちに、彼ら彼女らの胸の内にある悩みや葛藤に触れ、少しずつ視野が広がっていくのだ。

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 たとえば、ミスターコンに出場するイケメンの沓掛くんが、実は悩んでいることを知る。見た目ばかりを評価される彼は、「俺にはなにもない」と苦しみ、カメラを持つ斎藤を羨んでさえいるのだ。

 このエピソードを読み、あらためて思う。もしかしたら、陰キャ・陽キャという線引きはとても雑なもので、仮に陽キャとされる人たちであったとしても、陰キャと同じように悩みを抱えているのではないか、と。

 見た目や振る舞いによって暗い・明るいと区分けするのは、非常に乱暴なことだ。それはただのレッテルであり、その人自身を見ようとしていないことを意味する。当たり前なことだが、人は一人ひとり異なる。どんなに明るく振る舞っていたとしても誰よりも深い悩みを抱えていることだってあるし、暗そうに見える人の毎日がとても充実していることだってある。斎藤が関わることになったミスコン出場者、陽キャの面々にも重い葛藤はあるだろうし、逆に陰キャでモブと称される斎藤にだって、彼にしかない幸福のカタチがあるかもしれない。

 それを踏まえると、俄然、本作の楽しみ方が変わってくる。最初は陰キャが変化していく定型的なストーリーだと思っていたが、これは陰キャや陽キャなど関係なく、青春時代を過ごす一人ひとりの男女が変わっていく繊細な物語なのだ。

 第2巻でいよいよミスコンがスタートする。それに伴い、陽キャたちは“世間の評価”にぶつかる。嫌でも自分自身を見つめることになるだろう。そんな彼らを、斎藤はどう見据えていくのか。自分の立ち位置に悩みがちな青春時代を舞台に、それぞれのキャラクターが変わっていくさまを描く本作。斎藤に感情移入しつつ、一人ひとりの行く末を見守りたい。

文=五十嵐 大

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