5分で、あの頃の恋に引き戻される! 実体験にもとづく“純猥談”のショートストーリー集『一度寝ただけの女になりたくなかった』

恋愛・結婚

公開日:2021/4/24

純猥談:一度寝ただけの女になりたくなかった
『純猥談:一度寝ただけの女になりたくなかった』(純猥談編集部:編/河出書房新社)

 すごいタイトルだな、と『純猥談:一度寝ただけの女になりたくなかった』(純猥談編集部:編/河出書房新社)を見たとき思ったのは、インパクトのせいだけではなくて、このたった一行に閉ざしてきた何かを揺さぶり起されて、手を伸ばしてしまう女性が大勢いるだろうからだ。実際、ページを繰ってみれば「あのときの、あの瞬間……!」と悶絶してしまう描写のオンパレードで、読みながら変な声が漏れた。

〈誰もが登場人物になったかもしれない、今の性愛にまつわる誰かの体験談があつまる場所〉というのが“純猥談”のコンセプトだ。約1万件の投稿にもとづくショートストーリーから、選りすぐりの23編を収録したのが本書。つまりこれは、多少の脚色はあれど、いつかどこかで起きた誰かの物語なのだ。

「もっとどうでもいい男と寝とけばよかった」――不細工だけどかわいい男の子と“いちばん仲のいい先輩・後輩”でいられればそれでよかったのに、一線を越えてしまったあとのやるせなさ。

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「私たちの過ごした8年間は何だったんだろうね」――一緒に住み始めて1年足らずですれ違い、触れ合うこともなくなっていた2人が、別れの日にした衝動的なセックス。

「いつか回り回って恋人に戻れたら幸せです」――別れたあと、そう願ったのは確かに自分のはずなのに、いざ彼がやり直そうと言ってきたときにはその手をとれない。一生忘れられない人と、一生大事にしたい人は違うのだと知ってしまった日。

 表題作を含めて収録されているほとんどが終わってしまった恋で、読後感も胸キュンというよりはイタさに満ちているけれど、でもえてして、成就しなかった恋ほど記憶に残り続けるもの。

「誰よりも好きで、憧れていて、できることなら抱かれたかったけれど、それをしてしまったら“一度寝ただけの女”になってしまう」とこらえた夜。「ヤレる女」を演じないと会ってもらえないと知っているから、わざと都合のいい軽い女を演じた日。一度でも自分から好きだと言っていれば関係は変えられたはずなのに、それをしないまま永遠に失ってしまった人。

 23パターンあるとはいえ、まるきり同じ体験をしたという人はそれほど多くはないかもしれないけれど、たぶん多くの人が、成就しなかった自分だけの想いのかけらを、寄り添うように一生懸命聞いた友達の恋を、本書のどこかに見つけるだろう。

〈出来れば一生共感したくないお話〉と帯にツイッターコメントが引用されているとおり、そのほとんどが二度と関わりたくない感情で、穏やかに幸せを紡いでいくためには封じておいたほうがいい過去だ。けれどそれでも、あの痛みがあったからこそ生きていけるし、また誰かを好きになれるのだと、矛盾した希望も本書は呼び覚ましてくれる。

〈5分で切ない〉という煽り文句にしては、あまりに重たくてずんとくるショートストーリー集。一度でも叶わぬ恋をしたことのある人には、男女問わず響くはずである。

文=立花もも

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