裏切りに次ぐ裏切りで、物語の展開も、主人公の恋の行方もまったく読めない! 読まないと損するファンタジー『偽りのフレイヤ』

マンガ

公開日:2021/5/16

偽りのフレイヤ
『偽りのフレイヤ』(石原ケイコ/白泉社)

『銀河英雄伝説』や『ゲーム・オブ・スローンズ』に人々が熱狂する理由のひとつは、「まさかその人が死ぬとは……」「あいつが裏切るなんて……」という容赦ないどんでん返しの連続が仕込まれているからだろう。マンガ『偽りのフレイヤ』(石原ケイコ/白泉社)もまた、同じ。とくにファンタジー好きならば押さえていて損はない……というよりむしろ読まないと損をする作品である。

 主人公は、小国テュールのさらに小さなテナ村で母と暮らす、泣き虫少女・フレイヤ。家族同然に育った幼なじみの兄弟――皇太子の近衛・黒騎士を務める兄アーロンと、一般兵の弟・アレクの帰りを待っていた彼女の平凡な日常は、ある日突然、変わってしまった。北の大国シグルズによる脅威が迫るなか、国の希望とされる王子が人知れず病で命を落とし、王子と瓜二つのフレイヤが身代わりを務めることになってしまうのだ。

 そこからがとにかく、怒涛の展開で息つく暇がない。必ず守ると誓ってくれたアーロンは、フレイヤと心が通じ合った矢先、1巻で早くもシグルズ兵に殺されてしまう。同じくフレイヤを想い続けてきたアレクは、兄の代わりに死ぬ気で近衛騎士に昇格するも、ある事件でフレイヤのために谷底へと落ちてしまう。それでも、敵国に通じた宰相によって陥落しかけた砦を守ろうと奮闘するも、思いがけない人物の裏切りにあい……。

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 結局アレクの無事がわかり、内部の敵も一掃できたところで、シグルズに支配されたかつての同盟国・ナハトにフレイヤは向かうのだけど、ナハトではなぜか妃の侍女が国を支配していた。処刑人として恐怖を国中にまき散らす彼女に、王と妃も逆らえない様子。ナハトとふたたび同盟を結ぶため、6巻でフレイヤは国の問題を解決しようと奔走するのだが、これまた想定外の裏切りの連続で、「構成うますぎるやろ……」と唸るほかなかった。

 さらに5巻以降、少しずつ変化を見せているフレイヤの恋模様にも要注目。というのも本作の魅力は、フレイヤが最終的に誰を愛するのか、まったく読めないことにもある。順当に考えればアレクだが、その想いにうすうす気づいているフレイヤが、彼に恋をしているかといえばはなはだ疑問。だがアレクは、命を助けられるのと引き換えに森の民となにやら重大な取引をかわしたらしく、フレイヤのそばにいられない覚悟を決めている。その事実が知れたとき関係がどう動くのかが見どころである。

 だが今のところ見逃せないのは、白騎士・ユリウスとの関係。亡き王子への心酔ゆえに最初はフレイヤを疎んじていた彼は、悲しみを背負いながら強く美しく成長していくフレイヤにとうに心を奪われており、6巻でとある行動に出る。それに、フレイヤがまんざらではなさそうなのが、なんとも……!

 旅の途中、身分を隠したまま出会ったフレイヤにガチで求婚したシグルズ王は、さすがに恋の相手にはならないだろうが、その出会いが今後にどう作用していくかも注目である。

 それにしても、そもそもなんでフレイヤは王子とそっくりなのか? フレイヤの母は王宮とかかわりがあったのか? など、まだまだ明かされていない謎がてんこもり。とりあえず7巻では、ナハト国の人々が幸せになってくれることを願いつつ、先がまったく読めない以上、読者はおとなしく続刊を待つしかない。

文=立花もも