SNSでイラストがバズッたらネット上の友人から奇妙なメッセージが…!? 抑えられない嫉妬心にヒヤリとするマンガ

マンガ

更新日:2021/6/8

君の筆を折りたい
『君の筆を折りたい』(河原シノ/徳間書店)

 SNSで他人の成功が可視化されることが増えた現代、つい自分と比べてしまい、嫉妬心に苛まれたことのある人は多いのではないだろうか? 特に、自分と目標が同じで、境遇がよく似ている人の成功を目にするのは、辛いものがある。嫉妬心は厄介だ。他者の成功を素直に祝えない自分にも嫌気がさすし、自分が実現したいことを先に成し遂げた相手を見て、不安や焦りも覚える。「人は人、自分は自分」と割り切り、前向きに努力できるようになるまでは、さまざまな心の葛藤を乗り越えなければならないのだと痛感する。

 河原シノ先生の『君の筆を折りたい』(徳間書店)は、そんなSNSで、恋い慕う気持ちと嫉妬心が暴走する様子が、禍々しくも、柔らかく可愛い絵で描かれたマンガだ。主人公は、「綿棒」というペンネームで絵を描き、SNSに投稿している高校1年生の佐竹昭仁。評価は気にせず好きなように描いていたが、SNSを始めて3年、初めて自分の絵がバズる。あっという間に8千「グッド」に到達し、その喜びをネットで初めてできた絵描き友達・マントヒヒリス丸さん(通称リス丸さん)にDMで報告するが、返信がない。リス丸さんは、本名や年齢、性別こそ不明だが、とても気が合い、何かあったら報告し合おうと約束していた。佐竹は、まだあまり多くの人の目にとまっていないリス丸さんの絵が大好きで、心から応援している。だが、次の日、佐竹のもとにリス丸さんから「私はあなたの筆を折りたい」と衝撃的なメッセージが届くのだ…!

advertisement

 リス丸さんの豹変に落ち込んでいたある日、帰宅部の佐竹が、友人に頼まれ美術部の部員募集のポスターを描いたことで、美術部次期部長の一色(ひいろ)小春と知り合う。美人で成績優秀で、みんなの憧れの小春に、急にデートに誘われ舞い上がる佐竹。初デートで、「イラストレーターになって好きな小説家の表紙を描くのが夢」だと語る小春に親近感を覚えるが、佐竹の夢もイラストレーターだと明かすと、がらりと態度を変え、冷たい表情で反対する。また、小春にリス丸さんのDMのことを相談すると、

「…私なら…そんなにこの人の事好きなら筆を折る」

と、予想だにしない返事をされる。DMでリス丸さんからひどいことを言われ続けても、仲が良かった時のことを忘れられず、まだ友人でいたいと願っていた優しい佐竹だが、「前みたいに仲良くしたいのなら筆を折るしか方法はない」とサラリと告げる小春の提案に困惑して――!?

 本作は、学校に行く意味を見出せず、ネットに仲間と居場所を作り、満足していた佐竹が、絵がバズり、フォロワーも約2万人まで増え、順調に行くと思いきや…。ネットの友人に裏切られ、好きな女性からも筆を折るよう勧められる闇が深い展開が淡々と描かれる。嫉妬心が爆発してアンチに変貌しても、本人に「あなたの筆を折りたい」と突撃する行為は、余程のことがないとできないと思う。第一、ライバルの筆を折ったところで、リアルにもネット上にも天才はゴロゴロいるし、そもそも、自分が成功するわけではないのだ。

 多くの謎を秘め、佐竹に近づいてきた小春の本心も気になるところだが、人間の憎悪や矛盾する感情は、自分にも身に覚えがあるゆえ、やるせない気持ちになった。膨れ上がる嫉妬心の行く末を、冷や汗をかきながら見守りたい。

文=さゆ

あわせて読みたい