全米130万部ベストセラー! 世界にはびこる「人種差別」を解き明かすためのガイドブック

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公開日:2021/8/18

アンチレイシストであるためには
『アンチレイシストであるためには』(イブラム・X・ケンディ:著、児島修:訳/辰巳出版)

 近年、世界で人種差別に対する抗議運動が活発に行われてきている。東京オリンピックでも、女子サッカーの日本代表とイギリス代表の選手たちが、試合前に片ひざを地面について人種差別への抗議を表明したことが話題になった。

 だが、多くの日本人にとって人種差別という問題は、身近に感じにくい。しかし、日本人は差別をする側にもされる側にもなりうる。当事者意識をもって差別撲滅のために努力をしていくことは必要不可欠なのではないだろうか。

『アンチレイシストであるためには』(イブラム・X・ケンディ:著、児島修:訳/辰巳出版)は、“2020年最も影響力のある100人”に選ばれた世界が注目する歴史学者のイブラム・X・ケンディ氏による一冊。全米130万部の大ベストセラー作品であり、米Amazon第1位、NYタイムズ・ベストセラー第1位に輝いたこの本では、著者が自らの体験を織り交ぜながら、世界に蔓延るレイシズム(=人種差別主義)の構造や本質を教えてくれる。

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誰にだってレイシズム的な考え方が潜んでいる

 あなたは、自分のことを「私はレイシストではない」「人種差別するような人間ではない」と思っているかもしれない。だが、著者によれば、レイシズムが深く浸透した今の社会では、ほとんどの人の心に人種差別的な考え方が潜んでいるという。人は、ある瞬間には、レイシストにもなったり、次の瞬間はそうでなくなったりもする。その人がレイシストであるかどうかは、その場面ごとの言動によって異なるのだ。

黒人が黒人を非難

 アフリカ系アメリカ人であり、差別される側にあった著者も、かつてはレイシズムに毒されていた過去があったという。高校時代、スピーチ大会に出た彼は、不真面目な黒人の若者をたしなめるスピーチを行った。だが、「黒人は勉強が嫌い」だとか「黒人は無気力」という彼の考えは、よくあるレイシズムの考え。証明しようもないステレオタイプ的なモノの考え方だったのだ。

 当時の社会でもがき苦しむ黒人たちを見て、著者はその原因は彼ら自身にあると考えていたという。黒人エリート層や高学歴者は、黒人の低所得層に対して苛立ちや不満を抱きやすく、それは同じ黒人の間でのレイシズム思想につながりやすい。黒人の自分に厳しい評価を下す社会のありように目を向けることなく、自己責任論で黒人が黒人を非難してしまうこともあるというのだ。

人種差別のない世界を作るために

 ではレイシズム的な考え方を撲滅するためにはどうしたらいいのだろうか。「私はレイシストではない」という主張だけではレイシズムを撲滅することはできない。それどころか、「私は人種に中立的だ」という主張は、レイシズムを認めているのと同じだと著者は言う。私たちは差別撲滅のために「アンチレイシスト」として、差別的な考え方を見つける度にそれを取り除く努力を続けなければならない。レイシストの権利者たちがつくりだす「ポリシー(政策、制度、ルール)」を変えていかない限りレイシズムは解決できない。問題の根源は、「人々」や「権力」「人々の集団」ではなく「ポリシー」にあることに目を向ければ、アンチレイシズムの世界が実現可能であるはずなのだ。

 この本を読むと、自分の中にあったレイシズム的な考え方を反省せずにはいられなくなるだろう。人種差別に対する意識が変わるこの本は、全ての現代人に読んでほしい一冊だ。

文=アサトーミナミ

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