「ビズリーチ!」インパクト絶大のCMで知名度急上昇の前夜、社内は大ピンチだった

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更新日:2021/9/15

『突き抜けるまで問い続けろ 巨大スタートアップ「ビジョナル」挫折と奮闘、成長の軌跡
『突き抜けるまで問い続けろ 巨大スタートアップ「ビジョナル」挫折と奮闘、成長の軌跡』(蛯谷敏/ダイヤモンド社)

「すごい経歴だ…」「即戦力じゃないか」
「おい、君、一体どうしたんだ?」

中途採用候補者の履歴書を見て驚く社長に、女優の吉谷彩子が人差し指を立てながら「ビズリーチ!」と言い放つ――。「ビズリーチ」は、インパクト絶大なテレビCMによって誰もが知る転職サイトとなった。だが、テレビCM放送直前、ビズリーチは事業に行き詰まっており、CMは起死回生の一手だったことをご存じだろうか?

 本書『突き抜けるまで問い続けろ 巨大スタートアップ「ビジョナル」挫折と奮闘、成長の軌跡』(蛯谷敏/ダイヤモンド社)は、ビズリーチ創業者で、現在は持ち株会社「ビジョナル」の社長を務める南壮一郎氏を追うノンフィクション作品である。南氏は、海外大学卒業後、モルガン・スタンレー証券に入社。2004年には、東北楽天ゴールデンイーグルスの立ち上げに参画し、2009年にビズリーチ創業という異色の経歴を持つ。

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「課題のセンターピンを見抜く」 楽天イーグルスでの学び

 南氏のビズリーチ創業には、楽天イーグルス立ち上げ時に先輩実業家たちに学んだことが生かされているという。本書の第2章「楽天イーグルスの教え」は、これだけで1冊成り立ちそうなほどに、ビジネスのエッセンスが濃縮されている。南氏は、「事業づくりの師」と仰ぐ現ヤフーCOO(最高執行責任者)の小澤隆生氏から「課題のセンターピンを見抜く」ことを学んだ。事業の成功には、ボウリングのセンターピンのように、それを倒せば後もうまく行くような攻めどころを見つけることが大切だ。

 プロ野球の球団経営は、赤字が当たり前の世界だった。それでも、企業は宣伝が目的だからと放置され続けていた。なぜ、プロ野球は黒字にするのが難しいのか――。「課題のセンターピン」は、「球場とスタジアムを一体的に経営できていないこと」にあった。球団はスタジアム対して使用料を払って試合を行うが、3時間で5000万円と非常に高額。年間80試合すると40億円にのぼり、これだけ赤字になるという。そこで小澤氏らは、球団とスタジアムの経営が一体化できる本拠地を探し、結果的に県営球場のオーナーである宮城県が交渉に応じた。これにより、楽天は球団経営初年度で黒字を記録したのである。

日本の働き方における「課題のセンターピン」は?

 ビズリーチ創業のヒントは、2007年に南氏が楽天イーグルスを辞めた後の転職活動にあったという。インターネットで転職活動をしたが、ヘッドハンターが提示する求人はバラバラで、それが本当に自分の可能性のすべてなのかと疑問に思った。求職者と企業がより多くの選択肢から納得して選べる仕組みは作れないか……。その後、似たビジネス構造を持つ有料婚活サービスの社長との出会いを経て、ビズリーチの原型が定まっていく。主体的にキャリアを作りたい人材のデータベースを作り、企業にそれを公開する。企業はそこから直接採用することで効率的に動け、求職者にはこれまでなかった求人情報が届くことで選択肢が増える。

 ビズリーチは好調なスタートを切ったが、利益の中心はデータベースを利用して企業に人材を紹介するヘッドハンター。企業の採用担当者には「直接採用する」メリットをなかなか感じてもらえなかった。彼らにとっては、求める人材を伝えれば候補者まで見繕ってくれる人材紹介会社のほうが楽なのだ。

 2015年、企業向けサービスが行き詰まり、ビズリーチはブレイクスルーがなければ厳しい状況に追い込まれる。そんな中、現状を打破する方法をとして唯一残ったのが「テレビCM」だったという。社運を賭けたプロジェクトで、なぜあんなに振り切ったCMを作れたのか。そこにも“当てる”ために徹底的に考え抜いた戦略があり、読み応え抜群なのでぜひ本書で確かめてほしい。ひとりの男の挑戦を描く物語としても、仕事で壁にぶつかる社会人のためのビジネス書としても、この上なくワクワクする一冊である。

文=中川凌 (@ryo_nakagawa_7

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