暗殺を生業にした男女の恋の行方は? 謎が謎を呼ぶミステリー仕立ての展開『年年百暗殺恋歌』2巻

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更新日:2021/10/13

年年百暗殺恋歌
『年年百暗殺恋歌』(草川為/白泉社)

〈瞬きひとつで心を奪われる そういう恋があると俺は知っている〉。なんて、物語の始まりとなる独白はとてもロマンティックだけれど、実際に描かれる恋は刹那的で、常に血の香りを漂わせている。それは、『年年百暗殺恋歌』(草川為/白泉社)というタイトルどおり、主人公となる男女2人が暗殺を生業とする身だからだ。

 暗殺を請け負うことで知られる灰星家の姫・鷹十里(たかとり)と、灰星家の手足となって働く美しき少年・雷火。幼いころ、鷹十里に命を救われた雷火は、名前と居場所を彼女に授けられ、新たに生まれ直した。ぱっとしない見た目、と誰からも嘲られる彼女の気品と芯の強さに心奪われた雷火は、灰星家のため、というより鷹十里のために命じられるまま人を殺し続ける。いずれ一族の利となる相手に嫁ぐのだろうことも、当主たる長兄を尊敬してやまない彼女がその命に背くことはないことも知りながら、生涯をかけて鷹十里を愛し、仕える覚悟を決めている。けれどそんな決意の裏で、鷹十里もまた雷火をひそかに想っていた。けれど、暗殺家業に引きずり込んでしまった罪悪感から、これ以上彼の手を血で染めさせたくない、と願う鷹十里と雷火はいつも少しずつすれ違っている。

 そんな2人が身分をいつわりもぐりこんだのが上奥瀧家。妾腹の長男・芹生(せりょう)には領主の死にかかわった疑いがあり、次男・石和(いさわ)が承継の儀を済ませる前に命を狙う可能性もある。儀式が終わるまでに芹生の罪の証をつかんでから殺せ、というのが課せられた任務だ。ところが調べれば調べるほど、芹生が殺したとは思えないうえ、厳しさのなかに優しさを忍ばせる芹生に、鷹十里らしくもなく心を動かされる始末。それを恋だと勘違いした雷火は、必ず証拠をつかんで殺すと決意するのだけれど、そこはやはり仕事。感情で突っ走るようなことはしない。鷹十里が見ていることを承知で、芹生の婚約者・千荻を手練手管で口説き落としていく様は、背徳感もあいまってなかなかに官能的だ。

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 けれどだからこそ、2人の間に立ちはだかる家業という壁がいかに大きいか、浮かびあがってくる。鷹十里も雷火も、自分の感情はいつだって二の次だ。もちろん、報われたいと望む気持ちがないわけじゃない。そうなれたらどんなにかいいだろう、とは常に思っている。だけど2人にとって最優先すべきは任務を遂行すること――自分以外の誰かが望んだ結果に着地させることなのだ。想う相手が本当に幸せなら、そこに自分はいなくてもいい。そんな諦めが2人の距離を、近づけては遠ざける。

 そんななか、思いのほか千荻の信用を勝ち得てしまった2人。真相を探るうち、芹生を本当に始末してもよいものか、と迷いはじめるが、上からの命令はむりやりにでも暗殺を遂行させようとするもので、その動きに疑いを抱いているうち、やがて思いもよらぬ人物の介入を知る……。誰もが本心を隠したまま、謎が謎を呼ぶミステリー仕立ての展開に息つく暇もなし。灰星家も巻き込んだ上奥瀧家のお家騒動と2人の恋の行方に、ますます目が離せない。

文=立花もも

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