『チェンソーマン』の藤本タツキ最新作! 創作が2人の少女を前へ進ませた物語

マンガ

更新日:2021/9/27

※本記事は物語の内容を含みます。ご了承の上お読みください。

ルックバック
『ルックバック』(藤本タツキ/集英社)

『ルックバック』(集英社)は『チェンソーマン』第一部完結後、初の藤本タツキ氏の作品だ。Webサイト「少年ジャンプ+」では読み切りとして史上最多閲覧数を記録した(2021年9月時点)。

 この物語は公開直後に即Twitterのトレンド入りをし、大きな話題になる。本作を語る人たちのなかには有名漫画家をはじめ、創作者が数多くいたのも印象的である。それは尊敬の念、嫉妬の感情、努力という行動、仲間といった“創作の源になるすべて”が描かれているからなのか。

「少年ジャンプ+」だけで読んだ方も、未読の方も、まずは単行本を“コマの隅から隅まで”読んでみてほしい。読後、あなたに残るものは……?

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創作を志す2人の幸せな出会いと別離

 小学4年生の藤野は、学年新聞で4コマ漫画を描いている。「上手いし面白い」とクラスメイトたちには好評で、自信もあった。しかしあるときから不登校の子・京本が描いた漫画も一緒に載ることに。風景や建物だけが描かれている彼女の4コマは、4年生とは思えないレベルの画力だった。

 京本に負けたくない藤野は、絵が上手くなるための努力を重ねる。その間2年。だが6年生のある日、藤野は学年新聞で並んだ京本の絵と自分の絵の伸びしろの差を認め、周囲に「いつまで絵ばっかり描いているの」と言われていたこともあり、漫画をやめてしまう。

 卒業式の日、藤野は京本に卒業証書を届けるように言われる。嫌々行った藤野の前に、京本が部屋から飛び出して来て、感情を爆発させる。彼女は“3年生”から藤野の4コマ漫画が大好きだったこと、好きな作品、などをとめどなく語ってきた。そして続けた。「藤野先生は天才です、なのにどうして6年生で描くのをやめたんですか?」と。

 藤野は「漫画の賞に出す話を考えていてステップアップのためにやめた」と思わず言ってしまう。「みたいです!」と目をキラキラとさせて言う京本。藤野は帰宅して久しぶりに漫画を描く。完成したネーム(下描きを)を京本が読んだときから、2人の幸せな時間が始まった。

 京本はそれから藤野の家に通い“藤野の後ろに座って”漫画の背景を描くようになる。彼女たちは驚異の13歳コンビ「藤野キョウ」として賞を獲り、デビューをはたす。2人は年一作以上のペースで読み切り作品を発表し続け、17歳のある日、高校卒業後の連載オファーをもらう。しかし京本は「美大に行きたいので連載は手伝えない、もっと絵が上手くなりたい」と言い、2人は離れた。藤野の連載は好調で、京本は美大に合格する。

 4年後、各々が創作の道を歩んでいたさなか、京本の夢は突然断たれた。

1人になった創作者を立ち上がらせたのは、かつての相棒の背中

 小学校の学年新聞で藤野が描いた4コマ漫画は、1人の少女を楽しませ、創作欲を刺激し、結果として京本に新たな一歩を踏み出させた。2年後、藤野は京本に自分の漫画をアツく褒められ、サインまで求められて、本気で漫画を描くようになった。彼女たちはお互いを刺激し、2人で創作者となった。

 だが京本はいなくなってしまった。

 藤野は悔恨の念に襲われていた。「私が引きこもっていた京本を外に出したから? 連載するなら超作画でやりたいと言ったことがあったから京本は美大へ行ったの?」と。

 別離が永遠になり、京本の家を訪れた藤野は「もし京本と少女時代に出会わなかったら」という想像にふける。出会うのは美大で、襲われる京本を藤野が救う。しかしそれは京本の描いた「背中を見て」というタイトルの4コマ漫画の内容だ。そして藤野は見つける。小学生の京本が着ていた“どてら”とその背中を。そこには京本と初めて会ったとき、自分が描いたサインが大きく書かれていた。

 立ち上がり、藤野は再び机にかじりついて描き始める。小学生の頃からまったく同じ、背中を丸めた姿勢で。

 読後、ひょっとすると悲しみやモヤモヤが残るかもしれない。ただ本作は「マイナスの感情で過去を振り返るな」「思い出を嫌なものにすべきではない」という明確なメッセージを私たち、そして藤野へ提示する。繰り返すが“コマの隅から隅まで”読んでほしいと切に願う。

『ルックバック』は創作者たちの幸せを描いた物語なのだ。

文=古林恭

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